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両手いっぱいの〇〇 第188話

――綾乃ちゃん!?」 「……はれ?杏里しゃん……え、ど、どうしたんっすか!?」  身体を揺さぶられて目を開けると杏里の顔が見えたので慌てて起き上がった。  え、何で杏里さんがオレの部屋にいるんだっ!?  もしかして……よ、夜這い!?  壁際に後退(あとずさ)って周囲を見回す。   「え、ここどこ!?あれ?あ、由羅の……」 「具合悪いの?熱はなさそうだけど……」 「え?ぐ、具合……?いや、全然……」  むしろ、めちゃくちゃスッキリ……してる気がする。 「そう、ならいいけど……」  杏里が安心したように微笑んだ。 「あの、何が……あ、もしかして莉玖に何か!?」 「莉玖は元気よ。そうじゃなくて……さっき響一から「昼を過ぎても綾乃が来ない。電話しても出ない。今日はお見舞いに来ないのか?」って連絡が来てね?昨夜は私の家には帰ってないって言ったら「事故にでも巻き込まれたんじゃないか!?マンションにいるのか様子を見て来てくれ!」ってもう大騒ぎで……」 「……え、昼……?」  壁の時計を見ると、寝る前とほぼ同じ時刻……ってことは…… 「え、オレ12時間も寝てた!?」 「あらあら……」 「うっそだろ……」  慌てて携帯を見ると由羅の不在着信の通知で埋め尽くされていた。  ぅわっ!なんだこれっ!! 「マンションに行っても返事がなかったから、もしかしてと思ってこっちに来てみたんだけど……」 「すすすみませんっ!!いや、オレちょっと掃除をしてて……」 「大掃除でもしてたの?」  杏里が部屋の中を見回した。  カーペットや大きな家具は元に戻したものの、まだ小物は散乱したままだ。  掃除というより、部屋を荒らしただけにしか見えない。  まぁ、荒らしたんだけど……(莉奈が) 「あ……あの、由羅と莉玖がいないうちに~とか思ってたらなんか止まらなくなっちゃって……あはは……はは……」 「まぁ、たしかにね。小さい子どもがいるとこまめに掃除してあげなきゃと思うけど、子どもをみながらだと大掃除や部屋の模様替えってなかなか出来ないわよね……」 「いや~、最初はこんなに大々的にするつもりはなかったんですけどね?その、やり始めるとベッドの下とか、棚の裏とかも気になりだしちゃって……」  自分でも苦しい言い訳だとは思うが、実際家具が動いたついでに裏側を掃除してから元に戻していたのであながち嘘というわけでもない。 「で、途中で力尽きてちょっと休憩……と思ってたら12時間も……」 「もぅ、綾乃ちゃんってば、一気に掃除しすぎよ!!疲れて当たり前じゃないの!!」 「あはは……」 「まったくもう……」  杏里が大袈裟にため息を吐いた。 「まぁ、とにかく……無事でよかったわ。今日はもうゆっくり休みなさい。あ、それからね、急いで大掃除することないわよ。響一、胃潰瘍が見つかったからもうしばらく入院することになったの」 「え!?胃潰瘍!?」 「そんなに大きくないから手術までは必要ないと思うけど、まぁ今日詳しく検査してその結果次第かしらね」 「い、いつわかったんですか!?」 「昨日の検査で見つかったらしいけど?」 「昨日って……オレなんにも聞いてない……」 「あらま。きっとあの子綾乃ちゃんに心配かけたくなかったのね。それか、数日間絶食らしいからいじけていただけかも」 「……そう……ですか」  そういえば、昨日帰って来る時、夕食の時間だったのに由羅の部屋に入って来た看護師は薬しか持ってなかった気がする。  慌てて飛び出してきたから全然気にしてなかったけど…… 「あ、そうだ。綾乃ちゃん、一応響一に連絡を……」 「はい、連絡しておきます!」 「後、明日は顔見せに行ってやってね。でもたぶんブツブツ文句言うはずだから、鬱陶しかったらさっさと帰って来ていいわよ」 「あはは……」  たしかに文句言われそう…… 「それじゃあ私は帰るわね。歌音と詩音のお迎えに行かなきゃ!」 「あ、すみません!ありがとうございました!」 「いえいえ~。綾乃ちゃんもあんまり無理しちゃダメよ~?」 「はい!」  杏里は朗らかに笑いながら嵐のように帰って行った。   ***  杏里が帰ってから、由羅にメールを送った。  ほら、病院だからすぐに電話に出られるとは限らないし?  メールしておけばそのうちに見るかもしれな……って、かかってきたあああああ!!  送信して秒で由羅から折り返しの電話がかかってきた。 「は、はいっ!!」 「綾乃か!?今どこだっ!?」 「えっと、あの、由羅の家……です……」 「私の?……そうか。いや、それはいいんだが、何をしていたんだ?何度も電話したんだぞ!?」 「あ~えっと、その……寝てました……」 「ずっとか?」 「ずっとです……」 「朝から何度もかけたぞ!?」 「だから、12時間寝てたんだってばっ!!」 「……12時間?……人間はそんなに眠れるものなのか?」 「オレもびっくりした」  ショートスリーパーの由羅にしてみれば、信じられない話しかもしれない。  いや、オレもこんなに寝たの初めてですけどね!? 「……どこか具合でも悪いのか?」 「いや、全然。むしろめっちゃ寝たからスッキリしてる」 「それは、つまり寝る前は具合が悪かったということじゃないのか?」 「あ~……いや、ちょっと掃除のし過ぎっつーか……大掃除をしてたら疲れて……」 「大掃除!?……綾乃……」  電話の向こうで由羅が大きなため息を吐いたのが聞こえた。  あ、これ長くなりそう。 「はいはい、ごめんなさ~い!明日!明日はちゃんとお見舞いに行くから!!オレそろそろ晩飯買いに行かなきゃ!それじゃまた明日な!おやすみ~!」 「あ、おいこら!綾……」  由羅はまだ何か言っていたが、オレは一方的に通話を切った。  オレ何やってんの!?自分から明日の説教材料を増やしてどうすんだっ!!  でもでも、電話で由羅の説教聞くのはきついんだよぉおおおお!!  ……よし、飯買いに行こ!  明日のことは明日考えるとして、ひとまず飯を買うために家を出た。 ***    

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