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両手いっぱいの〇〇 第189話

 翌日、由羅のお見舞いに行くと仏頂面が更に仏頂面になって待っていた。  もうお前どっかの寺の入口にでも立ってればいいと思う……  その顔見れば災厄も逃げて行くわ…… 「おはようございま~す……」  オレは視線を合わせないようにして小声でこそこそと入室した。  どうせバレバレなんですけどね……  あ~もう!怖ぇからこっち見んな!! 「おそよう。もう10時だぞ?」  わざわざ時計を見せながら言わなくても知ってるっつーの! 「あ~……えっと、ちょっと洗濯物を干してたら遅くなりました」  嘘じゃない。  荒れまくった室内を掃除して、埃で汚れてしまった莉玖の布団や莉奈のせいで引き出しから飛び出た衣類、床に落ちたタオルなどを洗濯しなおしていたら、いつの間にかこの時間になっていたわけで……だから、別に由羅に怒られるのが怖くてなかなか来なかったとか、そんなことはない!! 「綾乃?なぜ入口(そんなところ)で立っているんだ?」 「えっ!?それは……」  すぐに逃げられるようにです!! 「えっと、ほら、ね!?」 「何がだ。それよりもっと近くに来い。そんなところにいると話が出来ないだろう?」 「……ふぁ~い……」  渋々ベッドの横に行く。 「それで、体調は大丈夫なのか?」 「へ!?」 「12時間も寝たんだろう?」 「あぁ、うん。寝すぎてちょっとダルイくらい」 「何があったんだ?」 「え!?何がって……」  莉奈を興奮させちゃったせいで部屋中めちゃくちゃになってました!なんて言えねぇえええっ!! 「あ~……ちょっと大掃除を……ほら、莉玖がいるとなかなか大掃除って出来ないからさ、二人がいない今のうちにと思ってやり始めたら止まらなくなっちゃって……あ、別に変なことはしてねぇからな!?」 「そんな心配はしていない。綾乃……大掃除をしてくれるのはありがたい。が、程々でいいと言っただろう?」 「普段は程々にしかしてねぇよ?でも今はオレ暇だし……」 「暇じゃないだろう?今のお前の仕事は私の監視だ」 「ぅ……だけどお前だってついてなくていいって言ったし……」 「あれは……一日中ついている必要はないと言ったんだ。せめて一回くらいは顔を見せろ。どこか具合が悪いとか、何か用事があるなら無理に来る必要はないが、電話くらいは出てくれ。心配するだろう!?」 「ごめん……だって、久しぶりにお前のベッドで寝たら気持ち良かったんだもん……」    疲れていたせいもあるけど、半分は由羅のベッドのせいだ。  あのベッド気持ちい…… 「私の?」 「あ゛……いや、あの、変な意味じゃなくてだな!?シーツ、そう!シーツを洗おうと思ってて、えっと……」 「そうか、私のベッドか……んん゛、まぁ……それなら仕方ないな」 「え、いいの?」 「構わん。好きに使え」  てっきり勝手にベッドを使ったので怒られるかと思ったのに、由羅はあっさりと許してくれた。  っていうか、なんで若干嬉しそうなんだ…… 「あ!そういやお前、胃潰瘍が見つかったって?」 「……らしいな」  由羅がバレたかというように、また顔をしかめた。 「どれくらい入院すんの?」 「わからん。ちょっと出血していたらしいからしばらく何も食えないのがキツイな」 「出血!?」 「大したことはない。まぁそんなに大きくないから点滴と薬で何とかなるだろうと……綾乃、そんな顔をするな。大丈夫だ」  由羅がフッと表情を緩めてオレの頬を軽く撫でた。 「ストレス?」 「あぁ……だろうな。ちょっとここのところ面倒事が重なったから……」 「そか……」  その一つがオレなんだろうな~…… 「仕事のことだぞ?」 「え?」 「綾乃のせいじゃない」 「でも……」 「莉玖のパパイヤはそういう時期なんだから仕方がないだろう?それに、今まで綾乃に任せっきりにしていた付けが回ってきただけだ」 「それはそうかもしれねぇけど……由羅がひとりで育児するのは大変だからオレがいるんだし……」 「そうだな……」 「……」 「綾乃?」  やっべぇ……唐突に由羅の宿を思い出した……  あ、でも由羅はもう忘れてるかもしれな…… 「そういえば、宿題の答えは出たか?」  忘れてないぃいいい!! 「しゅ、宿題!?何のこと!?」 「一昨日出したはずだが?」 「一昨日!?えっと……あの~大掃除に夢中になりすぎて……忘れ……っ!?」  逃げ腰になっていたオレはあっさりと由羅に捕まり、アタフタしている間にベッドの上に簡単に持ち上げられて押し倒された。 「ちょ、おまっ!何やって……待っ、んんっ!やめっ……~~~~!……――っぁ」  何でオレ病院のベッドで押し倒されてんの……  っつーか、キスが長いっ!! 「思い出したか?」 「っ……思い、出し、ま……ゲホッ!」  思わず咽たオレの背中を由羅が擦る。  なぁ、これどっちが入院してんだっけ?   「由羅のバカっ!……こんなとこで何てことすんだっ!」 「お前が忘れるからだ」 「だからって……胃潰瘍がなけりゃ腹に一発入れてんぞ!」  腹を蹴ってやろうと思ったけど、胃潰瘍が出来てるとか言ってたから蹴るのは止めた。  うん、だからオレは抵抗しようと思えば出来たけど、由羅が病人だから抵抗して胃潰瘍とかその他諸々が酷くなるとダメだと思ったわけで、決して力負けして抵抗出来なかったとかキスが気持ち良くて抵抗出来なかったとかそういうわけではあああああああっっっ!!……もうなにやってんのオレ…… 「胃潰瘍も役に立つもんだな」 「バカっ!」    のんきに言い放つ由羅にイラっとして頭をペシッと叩いた。 ***

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