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両手いっぱいの〇〇 第190話
「それで、どうなんだ?」
「え?」
「だから宿題の答え」
「え~と……難問だからちょっとすぐには……」
「じゃあもう一回……」
「しなくていい~!!!」
由羅の顔が近付いて来たので慌てて押し返した。
「難問だと言うから、一回じゃわからないのかと……」
一回どころかもう何回もしてるだろうがっ!!
「わかった!わかったからっ!!とりあえず退けって!こんなところ誰かに見られたら……」
いくら個室だっつっても、いつ誰が入って来るかわかんねぇのにっ!!
「別に私は構わないが?」
「オレは構うんだよ!っつか、お前も構えよ!!」
「……わかった」
由羅が渋々オレの上から退いたので、急いでベッドから下りた。
「そんなに難問じゃないと思うが……」
「オレには難問なんだよっ!」
「どこがだ?」
「どこがって……」
「リョウにキスされた時はイヤだったんだろう?じゃあ、私とのキスはどうだったのかと聞いただけじゃないか」
「それは……お前のは別に……イヤじゃなかった……けど?」
「……そうか。なら良かった。私とのキスがイヤじゃないなら、まだ恋愛的な意味で好きになってもらえる可能性もあるってことだな」
「……は?」
なんだそれ……それを確認するためのキスだったわけ?
「あぁ。そうだが?だから難問じゃないと言っただろう?」
いや、難問だってば……
「私とのキスもリョウと同じようにイヤだったのなら、綾乃にとって私は完全に恋愛対象からは外れているということだろう?だが、イヤじゃなかったのなら……少しは望みがあるということじゃないか」
可能性も何も……
「……きだよ」
「ん?」
「だからっ!!……好きだっつってんのっ!!オレも恋愛的な 意味で……!」
「……え?」
「よくわかんねぇけど……でも、リョウのことは好きだけど、キスは気持ち悪かった。つまり、あいつのことは幼馴染としての好きで……それ以上にもそれ以下にもならないってことで……だけど由羅のは……イヤじゃねぇから……たぶんそういう好きなんだと思う……」
オレはこの一ヶ月ずっと考えていたことを口に出した。
まだ結論は出てないし、自分でもよくわかってないけど……
「……ほぅ?」
「でも……でもいくら好きでも、お前の恋愛観にはついていけねぇし……だからお前ともそれ以上にはなれない……」
「それは……私にも望みはないということか?私のことが好きなのに?」
だって、イヤじゃなかったけど……好きだけど……
「お前は……恋人とか関係なく好きなら誰でもいいんだろう?……他にいいなって思うやつがいればそいつとも簡単にキスとか……そういうことをするってことじゃねぇか……」
「ちょっと待てっ!だから……誰でもいいだなんて言っていないだろう!?綾乃の中では私はかなり倫理観のない男になっているみたいだが……そもそもあの話は昔の……」
「だけど……あのベッドで他のやつが寝るのはイヤだ……」
「綾乃?」
「お前のことは好きだし、莉玖のことも好きだから、仕事は続けたい。莉玖のベビーシッターはあと数年で終わるけど、その後も家政夫として必要だって言ってくれるなら、続けたい。家政夫として、友人として、傍にいられればいい……だからお前はお前の恋愛観に共感してくれる人と付き合えばいい」
「綾乃!私が好きなのは……」
「って、最初はそう思ってたんだけど……でもこの一ヶ月ずっと考えてて……無理だってわかった」
「無理?」
いまだに頭の中はぐちゃぐちゃで……自分の気持ちがよくわからない……
だけど、一つわかったことは……
「お前の隣に他のやつがいるのを見るのは……イヤだ……だから、お前に相手が出来たらやっぱり傍にいるのは無理だ」
「……つまり……私に他に相手が出来なければずっと傍にいてくれるということか?」
「え?あ……え~と……?」
ん?そういうことになるのか?
考えがまとまってないから、とりあえず考えてたことをダラダラと喋ってみただけなんだけど……え~と……
「そういう……こと?」
「わかった。それじゃあ、私の専属家政夫になってくれるってことだな」
「……へ?」
「私はこの先もずっと綾乃以外の人を好きにはならないと言ったんだ」
キョトンとしているオレを見て、由羅が苦笑した。
「信じられないなら今はそれでもいい。家政夫としてでも傍にいたいと思ってくれているなら今はそれだけで十分だ。だが、頼むからこれは忘れないでくれ。私は誰でもいいわけじゃない。ずっと傍にいて欲しいと思ったのは綾乃だけだ。時間をかけて綾乃に信じてもらえるように頑張るから……それまでは私の専属家政夫として傍にいてくれ」
「え?あ……うん……」
「ちなみに、キスは……」
「えっ!?そ、それはここじゃダメだぞ!?場所を考えろっ!!」
思わず口に手を当てると、由羅が笑えるくらい目を丸くしてオレを見た。
ん?なんでそんな驚いてんだ?
「……家ならいいのか?」
「へ?……ま、まぁ……ここよりは……?」
「そうか、わかった」
「え?な、なにが?」
「退院が待ち遠しいな!」
「は?え、あ、うん……え?」
ちょっと待て!!何の話をしてるんだっ!?
どういうこと!?
やけに嬉しそうな由羅に戸惑う。
***
『――あらやだ。それってつまり、プロポーズじゃないの!?それに……綾乃くんも家ならキスをしてもいいって答えたってことは……綾乃くんもプロポーズ受けたってことね!?やだもぉ~!なんで私がいないところでそういうことするのぉおおお!?まぁちょっと色気が足りないけど……でもおめでとぉ~~!!』
アホなオレは、帰宅して莉奈に指摘されるまで、そのことに気付かなかった。
は?プロポーズ……?
え、オレ家ならキスしてもいいとか……言ってるぅうううううう!!
待って、プロポーズって何!?オレ男だからそんなのないだろ!?
ちょ、ひとりで盛り上がるんじゃねぇよ!!莉奈さあああああああああん!!
***
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