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両手いっぱいの〇〇 第191話

――『プロポーズ』とは何ぞや……  莉奈に言われてから、オレのネットの検索記録はその言葉で埋まっていた。  画面を眺めながら、気が付くと肩に耳がつくくらい首を傾げている。  わかんねぇ……  だって、どのサイトで調べてもだいたい「結婚の申し込みをすること」「求婚」という言葉が出て来る。  結婚の申し込み?求婚?  オレ別に由羅に「結婚して下さい」なんて言われてねぇよな?  そもそもオレら付き合ってもねぇし?  好きだとは言われたし、オレも好きだとは言ったけど……  でも……結局付き合ってねぇし?  家政夫として傍にいてくれって言われたから、つまり当面はクビになることはなさそうだけど……  由羅もあの翌日からはそのことに触れることはなく、オレをからかってくるわけでもなく、普通だった。  うん、だから莉奈の勘違いだな!!   *** 「ただいま~!からの、おっかえりぃ~!」  オレは一番に玄関を開けると、くるりと振り返ってこの家の家主たちを出迎えた。 「ただいま」 「んまぁ~!!」  由羅は結局二週間近く入院した。  手術はしなくて済んだので、後は家で安静にということだった。  しばらく絶食していたし、まだ完治したわけではないので、あまり胃に負担がかからない食事をしつつ、仕事も程々に、適度に休憩をとること等、いろいろと言われたらしいが……まぁ、一週間も入院していたので仕事が溜まりまくっているらしく、退院と同時にさっそく仕事関係の電話対応に追われていた。  これは……安静になんて出来そうにねぇな……  でも……オレは由羅が帰ってきたらとにかく、胃潰瘍を悪化させないこと、ストレスを悪化させないこと、睡眠と食事はしっかりとらせる!と心に決めていた。  オレにだって、家政夫としてのプライドがある!  家政夫の仕事が未だによくわかってねぇけど!  と、とにかく、オレがついてるのに過労で倒れさせちまうような失敗は二度としない! 「おお~!」  リビングに入ると莉玖が大歓声をあげた。 「これは……一体どうしたんだ?」  由羅もリビングの壁を見て驚いた顔をした。 「一応由羅の退院祝い?あと、莉玖も帰って来るの久しぶりだからな。しばらく寂しい思いさせちゃったし、ちょっとでも喜んでくれたら嬉しいなと思って……」  カラー段ボールを切って作った『退院おめでとう』と『おかえり』の文字をハートや星型の風船で囲み、莉玖の好きなキリンやゾウなどのアニマルを画用紙で作ってリビングの壁一面に貼ってみた。  保育園のお誕生会のイメージだ。   「姉さんのところに泊っていたんじゃないのか?いつの間にこんなに……」 「あぁ、それは……」  12時間爆睡事件のせいで、「綾乃ちゃんをひとりにすると響一と同じくらい危なっかしいわ!響一のお見舞いが終わったら絶対にうちに帰って来ること!」と言われて、オレは由羅の入院中、莉玖と一緒に杏里の家にお世話になっていた。  でも、ここ二日程は由羅のお見舞いの後はオレひとりで由羅家に泊まり、リビングを飾りつけしまくっていたのだ。 「あ~の!!りーたん!ちらちら!」 「ん?うん、そうだぞ!キリンさんとキラキラお星さまだ!スゴイな~!よくわかったな~!」 「な~!」  莉玖が壁を指差しながらパチパチと手を叩く。  気に入ってくれたみたいでちょっとホッとした。 「喜んでるみたいだな」 「ん?あぁ、うん。良かった!あ、壁に貼り付けてあるけど、跡が残りにくいテープ使ってるから壁紙とかは大丈夫だと思う」 「あぁ、そんなこと気にしなくてもいい。剥がれたら壁紙を貼り換えればいいんだし、好きに飾り付けしてくれ。莉玖も喜ぶ」  さすが、そういうところは太っ腹ぁ~。 「そうだ!莉玖、写真撮るか!しばらくはこのまま置いておくけど、風船とかはしぼんできちゃうからな。一番可愛いうちに残しておこう!」 「あい!」 「はい、こっち向いて~!――」  せっかく作ったからと撮ったものの、莉玖を壁際に座らせたので『おかえり』の文字しか入らなかった。  たぶん、数年後に見たら「これなんの写真だっけ?おかえりって何!?」ってなるやつだなこれ。  う~ん、もうちょっと手前に座らせて全体を入れて……って、そうだ!   「由羅も入って!由羅の退院祝いも兼ねてるし」 「私の退院祝いにしては可愛すぎないか?というか、私の方がついでか!?」 「そこは莉玖ファーストだから!文句言わない!!」 「……はい」  莉玖は相変わらずパパイヤだが、風船に気を取られていたせいか何とか泣く前に二人での写真が撮れた。   「綾乃も入れ」 「え?せっかく二人で撮れたのに?」 「いいから入れ」  いつもは莉玖が泣くからオレが抱っこをしているせいで三人になっているだけなのに……  でも、莉玖と一緒に撮れるのは嬉しい!  由羅と莉玖を挟むようにして座る。   「じゃあ、撮るぞ~?はい、ちー……あ゛」 「っぶしゅんっ!」  写真を撮ろうとした瞬間莉玖が豪快なくしゃみをしてスゴイ顔になった。  しかも由羅の方を向いてしたので、由羅も面白い顔になっていた。 「あはは、スゴイ写真が撮れたな!!」 「綾乃、笑ってないでティッシュ取ってくれ」 「はいは~い、莉玖も顔拭こうか――」  オレは携帯を置くと由羅にティッシュを渡して、莉玖の顔を拭いた。  由羅家に笑い声が響くのは久々だ。  そんなオレたちの様子を、莉奈が優しく見守って……いや、一番爆笑しながら見守っていた。 ***

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