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両手いっぱいの〇〇 第192話
由羅が退院してから、オレは家のことを全部済ませて莉玖を寝かしつけてから帰宅するようになった。
由羅はもう仕事に関しては口出しはしないと約束したので、最初は渋い顔をしていたが何も言わずにオレのしたいようにさせてくれている。
それはお互いさまで、由羅もまだ完治していないので一応仕事は休んで家にいるものの、ずっとリモートで仕事をしているので、全然安静には出来ていない。
でも、立場的に完全に休むわけにもいかないのはオレにもわかっている。
仕方がないので、オレもそれに関しては口を出さない。
その代わり、食事と睡眠だけは口うるさく言う。
「由羅~、入っていいか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ちゃんと牛乳飲んだか?」
リモート会議が終わって一段落した様子だったので、部屋に入る。
仕事中にオレや莉玖の声や姿が入るといけないので、由羅は昼間はずっと地下にある書斎で仕事をしている。
「ん?あぁ、飲んだ」
「どれどれ?……全然減ってない!!」
「え?いや、さっき一口飲んだぞ」
「二時間前と変わってねぇよ!せめて半分くらいは飲めよ!」
「……後で飲んでおく」
「ダメ!今!」
「ぅ……わかった」
由羅が渋々牛乳を飲んだ。
由羅はコーヒーが好きなのだが、刺激が強いとかで完治するまでは控えるように言われているらしい。
オレも一応家政夫として食事管理をするならちゃんと知っておかないと!と思って胃潰瘍の時の食事について調べてみたところ、牛乳は飲んでもいいと書いてあったので、由羅にはコーヒーの代わりに牛乳を出している……のだが……由羅は牛乳があまり好きではないらしく、コップ一杯を飲むのに時間がかかる。
アレルギーやお腹を壊しやすいというわけではなく、ただ苦手なのだとか。
放っておくと飲まないので、こうやって時々様子を見に来てオレが飲ませているのだ。
「飲んだぞ?」
「よしよし、よく頑張りました!」
何とか飲み干した由羅が顔をしかめつつオレに空っぽのコップを渡して来たので、軽く頭を撫でる。
「あっ!ごめん、髪がぐしゃった」
いつもの癖で撫でたものの、まだ仕事中だと言うことを思い出して慌てて由羅の髪を撫でつけた。
ビデオ通話をした時に髪がボサボサなのはヤバいよな……
「もっと褒めて良いぞ?」
「え?あぁ……はいはい、スゴイスゴイ!」
髪を直す方に気を取られていたので、適当に流す。
それにしても由羅の髪って……
「雑だな……」
由羅の髪を一生懸命撫でつけているオレに向かって、由羅がボソリと呟いた。
「いや、だってこの髪どうなってんだ?戻らねぇぞ?何これ、寝ぐせか?」
「寝ぐせはこんなにならないと思うが……綾乃が下手なんじゃないか?」
「うっせぇな!お前の髪が持ち主に似てひねくれてんだよ!オレの髪はちゃんと言うこと聞くし!」
「なるほど、たしかに綾乃の髪はツンツンしてるな」
「もう!自分で直せ!」
イラっとして由羅の頭をペチッと叩いた。
「やれやれ……」
由羅がちょっと大げさにため息を吐きつつ自分で髪を直す。
オレがどれだけ撫でつけてもバサッと額に落ちていた前髪が、由羅が数回掻き上げると綺麗に持ち上がった。
「……ほらな?」
「ぐぬぬ……っ!!」
やっぱりひねくれてる!!
「ところで、莉玖は?」
「ん?あぁ、今お昼寝中。あ、そうだ。莉玖が起きたら買い物行って来る。久しぶりに晴れたしな」
「私も一緒に行く」
「仕事は?」
「今日はもうリモート会議はない。急用があれば携帯にかかってくるだろう」
「わかった、んじゃ莉玖の用意が出来たら呼びに来る」
「あぁ」
買い物に行くのは三日ぶりだ。
天気予報で雨になっていたので、その前に由羅に買い物に連れて行ってもらってまとめ買いをしておいた。
今日は久々にいい天気になったので、莉玖の散歩も兼ねて買い物に行こうと思ったのだが、由羅も一緒に行くと言うことは車で行くことになりそうだ。
まぁ、その方がまとめ買いできていいけど。
オレは莉玖が起きる前にスーパーの広告と天気予報を見て数日間のメニューと必要な物を書き出していった。
胃腸に優しい食事を考えるのは大変そうだと思ったけど、調べてみると、莉玖の食事に寄せればいいだけなので案外簡単だった。
薄味で、消化のいいもの。まぁ、海藻や繊維の多い食材を使えないのは少し困るが……でもまぁ、雑炊やうどんは莉玖も好きだし、野菜は元々莉玖用に柔らかく煮込んでいるし……
でっかい子どもが増えたようなもんだな。
文句言うから面倒臭いけど!!
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