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両手いっぱいの〇〇 第193話

「由羅、お疲れさん。もう昼飯食える?」  オレは画面の中の由羅に話しかけた。 「あぁ、今から昼休憩だ。そっちは?」 「オレらも今からだ。ほら、莉玖、パパだぞ」 「パッパ!」  莉玖が画面に向かって指をさす。 「パパも一緒にご飯食べるってさ。それじゃ莉玖手を合わせて~いただきます!」 「あちゅっ!」 「いただきます」  画面の中の由羅も手を合わせて一緒に食事を始めた。 ***  数日前、そろそろ由羅が仕事に復帰するということで、オレは頭を抱えていた。  家にいる間は食事管理が出来るが、由羅が仕事に復帰すると管理出来ない。  まず確実に牛乳は飲まないだろう。  それはとりあえず家で飲ませるとして……問題は昼飯だ……  まだ完治したわけではないので一応お弁当を持って行かせようと思うのだが、メニュー的に……薄味で柔らかいものになる。それらは冷えるとマズくなるようなものばかりなのだ。 「冷めたお粥とかスープとか……食べる気なくすよな……ただでさえ食事の楽しみが減ってる状態なのに……」 「あら、じゃあ保温できる弁当箱にすればいいじゃないの」  由羅家にある普通の弁当箱を前に唸っていると、たまたま用事で近くに来たから、と由羅の様子を見に寄ってくれていた杏里があっさりと答えた。  どうやら最近はレンジ対応のお弁当箱や、保温が出来てスープも入れられる保温弁当箱というものがあるらしい。  え、マジで?  そんなスゴイ弁当箱があるの!?  さっそく調べてみると、思った以上に種類があって驚いた。  ちゃんと密閉性が高くてお粥やスープなどが漏れにくい作りになっているみたいだし、大きさもいろいろある。  学生の頃は自分で弁当を作って持って行っていたが、それはごく普通の弁当箱に入れていたので、最近の弁当箱がこんなに進化しているとは知らなかった。 「保温できる弁当箱自体は結構昔からあるのよ?まぁ、性能は今の方がいいでしょうし、レンジに対応しているものは新しいと思うけど……」  保温弁当箱に感動しまくっているオレを見て、杏里が苦笑していた。   「とりあえず、スープを入れるのは必要だよな……スープジャーってのがそうかな?」 「スープジャーはスープだけになっちゃうから、おかず、ご飯の容器と更にスープも入れられる容器がついてるこっちとかは?」  杏里と一緒にどのタイプの弁当箱がいいのかを調べて、スープジャータイプと、ランチジャータイプの二種類から選ぶことにした。   「由羅~、これでいい?」 「私は何でもいい。食事は綾乃に任せているからな。綾乃がいいと思うものを選んでくれ」 「金出すのも、食べるのもお前だぞ?」 「それはわかっている。だが、私に聞かれてもどれがいいのかわからないから、好きにしてくれ」  と言われたので、密閉性が高くて保温力の高いスープジャーとランチジャーを一つずつ買うことにした。   ***  弁当箱はこれで解決したとして、一番の問題は由羅がちゃんと食べるかどうかだ。  以前は忙しくて昼抜きということも珍しくなかったみたいだし、仕事をしながら合間におにぎりやサンドイッチなどの軽食を食べることも多かったらしい。 「そうだ!由羅、昼になったら電話しようか?」 「ん?」 「飯の時間だぞって」 「……モーニングコールじゃなくてランチコールか」 『ぶふっ!!』  由羅が真顔で呟いたので、隣にいた莉奈が吹き出した。  莉奈のツボも独特だよな…… 「そそ、お昼だからちゃんと食えよ~って」 「……電話だけか?」 「え?」 「ならいっそのこと――……」 「おおっ!それいいな!」  映像を繋いでしまえば、お互いに顔を見ながら食べることが出来る。  由羅は莉玖の食べる様子を見られるし、オレは由羅がちゃんと食ってるか確認できるのでちょうどいい。ということになった。  それが冒頭の状態だ。  映像を繋ぐと仕事をしながら食べることは出来ないので食事に集中できるし、莉玖やオレの顔を見ることで気分転換にもなるらしい。  もちろん、仕事の都合があるのでいつも食べるタイミングが合うわけではない。  由羅と繋げた時にはすでに莉玖が食べ終わっていることもあるし、もうお昼寝を始めていることもある。  そういう時でも一応映像は繋いで、由羅が食べ終わるまで莉玖の様子を映したり午前中の様子を話したりして過ごすのが日課になっていた。  と言うと凄く和やかなお昼の時間を想像するかもしれないが、日に日に「ジブンデ」が強くなっていく莉玖との食事は結構大変だ。  自分でしたがるのは良い事だし、自我の芽生えは成長の上で大切だ。  が、つまりは“反抗期”なのだ。  いわゆる“イヤイヤ期”に突入しようとしているわけで……  何が気に入らないのか突然ご機嫌斜めになって飯をことごとくひっくり返す莉玖と激戦を繰り広げている最中に由羅から通話がかかってくるとイラっとすることもあるし、莉玖が寝そうな時にかかってきてまた莉玖のテンションが上がってしまうと、由羅のバカヤローっ!と思うこともあるし、ぶっちゃけ毎回繋ぐのは面倒くさい!!  でもまぁ……由羅にも今の莉玖の状況がよく伝わるし、慣れて来ると映像を繋いで一緒に食べるのは楽しくもある。面倒くさいけどな!!   ***

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