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両手いっぱいの〇〇 第194話
「なぁ、由羅。お前ちゃんと夜寝てるか?」
「……え?」
オレは晩飯を食べている由羅の前に座ると、頬杖をついて話しかけた。
由羅は休んでいた間の仕事がだいぶ溜まっているらしく、一応昼ご飯の時間はちゃんと取っているものの、帰宅時間はちょっと遅い。
昼飯と晩飯の間が空きすぎるとよくないと言われているので、おやつ代わりに合間に食べられるように、野菜スープをもう一つ持たせている。
ちゃんと昼とはスープの味を変えてやるオレ、超優しい。具は一緒だけど。
「ちゃんと寝ているぞ?」
由羅が雑炊に視線を落としつつ表情を変えずに答えた。
「オレが帰った後、すぐに寝てる?」
「あぁ、もちろんだ」
ぐぬぬ……まだしらばっくれるか!!
「……じゃあ、昨夜は何してたんだ?」
「……昨夜?」
ようやく由羅が正面からオレを見た。
「オレさぁ、昨夜――……」
***
昨夜、莉玖を寝かしつけて、キッチンやお風呂などの掃除を済ませてからマンションに帰宅したオレは、およそ20分後、人生最大のピンチを迎えていた。
なんつって、まぁ単にトイレットペーパーが切れただけなんだけど……あ、用を足す前に気付いたから、ギリギリセーフだぞ!?
だからまだ人生最大ってほどじゃないんだけどさ。ちょっと言ってみたかっただけだ。
でも、内心マジで焦った。
座る前に気付いて良かったぁああああ!!
もう予備がないから買いに行かなきゃなって思ってたんだけど、なんせ家にいる時間が短いからトイレを使う回数も少なくて、うっかりしていた……
で、慌てて近所のコンビニまで自転車を走らせたのだ。
コンビニに行くには途中、由羅の家の前を通る。
「莉玖はちゃんと寝てるかな~」と思って何気なく見上げると、寝室のあるあたりでチラッと常夜灯よりも明るい灯りが見えた。
寝室はカーテンが分厚いので灯りが漏れることは少ないのだが、たまたまカーテンがちゃんと閉まっていなかったらしい。
うん、それはオレのミスなんだけど。
まぁ、それは置いといて……
その時はとにかくトイレットペーパーのことしか頭になかったので、あまり気にせずに通り過ぎた。
でも、コンビニで無事トイレットペーパーをゲットした帰り道、もう一度見上げると、やっぱりまた灯りが見えた。
たぶん……テレビとかパソコンの画面の灯りだと思う。
由羅は普段あまりテレビを観ないので、恐らくパソコンの灯りだ。
つまり……
「仕事してたんだろ?」
オレの話しを聞いた由羅が、空になったお椀を置くと、観念したように両手を上げて軽くため息を吐いた。
「あぁ、そうだ。持ち帰りの仕事をしていた」
「ちゃんと睡眠とらなきゃダメだって言われてるだろ!?」
「だから、1時には寝ているぞ?」
「1時って……せめて日付が変わる前に寝なさい!」
「病院でずっと寝ていたせいか、あまり眠くならないんだ。私は元々睡眠時間は少ないからな」
「でも……って、じゃあお前、帰って来てからずっとそんな調子だったのか!?」
「……まぁ、そうだな」
胃潰瘍を悪化させないように、睡眠と食事はしっかりとらせる!って密かに心に決めていたのに……オレが出来てたのは食事だけだったってことかあああああああああっ!!
「そんなに落ち込むな」
由羅が机に突っ伏したオレの頭をポンポンと撫でた。
「誰のせいだよっ!!」
「すまん……でも今は綾乃が莉玖を寝かしつけしてくれるから私も仕事に集中できるし……食事もいろいろ考えて作ってくれているから助かっているぞ?一人でどうにかしようとしていた頃に比べれば身体にかかる負担が全然違う」
「でも、先生にもちゃんと睡眠とれって言われてるだろ!」
「そうだな」
「あ~あ……なんだよもぅ……全然ダメじゃん……」
「……だったら、私がちゃんと寝ているか綾乃が傍で監視していればいい」
しばらく考え込んでいた由羅が、ボソリと呟いた。
「どうやって?……あ、莉玖にしてるみたいなベビーモニターを設置すればいいのか!それを確認して、日付が変わる前にちゃんと寝ろってオレが由羅に電話すれば……」
「あれは……綾乃のマンションまでは届かないと思うぞ?」
「え、そうなのか?」
「ああ」
「ぅ~ん……じゃあ別の方法探すか……」
「だから……」
「え?」
「しばらくうちに戻ってくればいい。もちろん休日はマンションに戻って、自由にしてくれて構わない」
「うちにって……ここに?」
「私がちゃんと睡眠をとっているか気になるなら、綾乃が一緒に寝て確認するのが一番手っ取り早いと思わないか?」
「まぁ……それはそうだけど……」
「私の胃潰瘍が治るまでだ。それならいいだろう?」
「……わかった。そうだな、睡眠と食事はちゃんととらせねぇとだし!今のままだとまた胃潰瘍が酷くなりそうだしな!」
そんなわけで、オレは休日以外は由羅家に泊まりこむことになった。
なんか若干うまく乗せられた気がするが……
***
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