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両手いっぱいの〇〇 第195話

 由羅が夜寝ていない。という情報は莉奈からのタレコミで知っていた。  ただ、普通に由羅に聞いてもきっとしらばっくれる。  こっちは確実な情報を掴んでんだ!  でもまさか莉奈から聞いたとは言えないので、どうやって由羅に確認しようかと考えていた矢先、たまたまトイレットペーパーが切れてコンビニに行く途中、寝室の灯りに気付いたのだ。  翌日由羅に確認すると、やはり最初はしらばっくれたが、夜通りかかった話をするとさすがに認めた。  ……で、なぜかその日からオレはまた由羅の家で寝泊まりすることになった。    勝手知ったるなんとやらで、急に由羅家に寝泊まりすることになっても全然余裕だ。  歯ブラシの予備は常に数本用意してあるのでそこから一本貰えばいいし、洗濯も由羅家でさせてもらっているので、オレの着替えはほとんど由羅家に置いたままだ。  普段は風呂上りにジャージの上下を着ると、マンションとの往復も寝る時もそのままで、翌朝由羅家に着いてから着替える。  休日のことを考えて、一応マンションにも上下一着ずつくらいは置いてあるが、もともと服はあまり持っていないので、二か所に置いておけるほど枚数がないのだ。  本当にオレって、マンションには寝に帰るだけだったんだな……と改めて思う…… *** ――それから数日後。 「ぅわっ!?え、由羅?帰ってたのか……」  莉玖を寝かしつけてしばらく寝室で日誌を書いていたオレは、そろそろ由羅が帰ってくるかもしれないと思い一階に下りた。  リビングに入ると、ソファーに由羅が寝転がっていた。  由羅がスーツ姿のままそんなところに寝転がっているのは珍しい。   「由羅~?」    顔を覗き込んで頭を撫でると、由羅が軽く顔をしかめた。   「由羅?どうした?あっ、もしかして具合悪……」  慌てて携帯を取ろうとしたオレの腕を由羅が引っ張った。 「大丈夫だ。今日は忙しかったからちょっと疲れただけだ」 「それを具合悪いって言うんだよっ!」 「少し横になれば大丈夫だ」  そういえば今日は昼休憩もいつもより遅かったし、時間も短めだった。  また何かトラブルでもあったのかな……  由羅の仕事は海外との取引も多いので、トラブルは日常茶飯事らしい。  由羅が言うには、海外とのトラブルよりも身内からの横やりの方が面倒で、胃潰瘍が出来たのも、身内が余計なことをしてきたせいでトラブルが大きくなって忙しくなったせいなのだとか……  まぁ、その身内っていうのはたぶん、あいつなんだろうな……  それはともかく……! 「由羅、飯どうする?食えそう?」 「あ~……今はいい……すまん、後で食べる」 「スープも飲めなさそう?今日はキャベツのポタージュスープだけど……」 「……じゃあ、ちょっとだけ飲む」 「無理しなくていいぞ?飲めるだけでいいからな!?」  由羅は申し訳程度にスープを飲んだ。  食欲がないというよりは、たぶん吐き気のせいで食べられないって感じかなぁ…… 「――由羅、今日はもう寝ろ」  スープを片付けながら、由羅に声をかける。  仕事に復帰してから毎日忙しそうではあったが、今日は特にキツそうだ。   「あぁ、いや、まだ仕事が……それにまだ時間も」 「まだ寝るには早い時間だって言いたいんだろ?だったら、朝方いつもより早めに起きて仕事しろ!ほら、早起きして何かする方が捗るとか言うし?」 「だが風呂も入ってな……」 「それも朝でいい!ほら、寝室行くぞ!」  オレは由羅を無理やり寝室に連れて行くと、服を着替えさせてベッドに押し込んだ。 「はい、おやすみ~!」 「……手荒いな……」 「これでも優しくしたっつーの!お前が文句言ってなかなか動かねぇからだろ!?」  どう見ても具合は悪そうなのに、仕事仕事とうるさいのでオレは若干イラついていた。  全く、そんなんじゃいつまで経っても治んねぇだろうがっ!! 「……ん」  由羅が自分の隣をポンポンと叩いた。 「なんだよ?」 「寝るんだろ?」 「お前がな?」 「綾乃センセーも一緒じゃないとイヤだ」 「響一くんは大人だから一人でも眠れます!」 「いや、無理。一人で寝てる間に具合悪くなるかもしれないだろう?」 「ぅ……あ~もう!わかったよ!」  具合悪いからワガママになってんのか!?  もぅ!面倒くせぇなぁ~……  オレは大きなため息を吐きつつ、由羅の隣に寝転んだ。  面倒くさい……けど……  一人で寝てる間に具合が悪くなるのはあり得る……そう思うとちょっとゾッとした。  無理はさせないようにオレがいるのに、オレが気づけなかったら意味がない……   「由羅、難しいだろうけど、今は仕事のことは忘れてちゃんと寝ろよ。ストレス溜めないようにって言われてるだろ?ほら、おやすみ」  オレはちょっと声音をやわらげると、子どもにするように由羅の胸をポンポンと軽く叩いた。  これでも一応ちゃんと心配してんだからなっ!! 「じゃあ、眠れるようにちょっと手伝ってくれ」 「ん?いいけど、手伝うって何……わっ、ちょ、由羅!?」  由羅の手が伸びて来て、気がついたらオレは由羅の腕の中にすっぽり納まっていた。 「眠れるように手伝ってくれるんだろう?」 「て、手伝うけど、何でこの体勢?」 「これが一番安心する……から」 「安心って……」  胃が痛いならあんまり腹を押さない方がいいだろうし、どうやって抜け出そうかと考えていると、頭の上から規則正しい寝息が聞こえて来た。 「ぇ……由羅?」 「……」  もう寝てるぅううう!!  え、早くねっ!?  やっぱ具合悪いってことじゃねぇか……  まぁ、とにかく寝たんなら、一旦ここは離れて……って、動かねぇ!!  キッチンや風呂の掃除がまだだし、一階の電気もつけたままなので、ひとまず抜け出して片付けて来ようと思ったのだが……  由羅はガッチリとオレをホールドしていて全然抜け出す隙がない。  そうだ、こいつに捕まるといつもこうだった気がする……  うん、オレも何だかんだで結構由羅と一緒に寝てたからな、大丈夫。  こういう時の対処法もわかっている。  無駄な抵抗はせずに寝る!!  おやすみぃ~~!! ***

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