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両手いっぱいの〇〇 第196話
カタカタというキーボードを叩く音で目が覚めた。
寝ぼけ眼を擦りつつ隣を見る。
「……由羅?」
「あぁ、すまん。起こしたか?」
膝の上にノートパソコンを乗せて仕事をしていたらしい由羅がチラッとこちらを見た。
まだ部屋の中は暗い。
莉玖もぐっすり寝ているところを見ると、夜中か朝方……
っていうか、
「……具合は?」
「ぐっすり寝たからもう大丈夫だ」
「そか……」
ホッとして起き上がる。
「まだ起きるには早いぞ?」
「あ~、一階電気つけっぱなしだから……」
「それなら消して来たから大丈夫だ。もうちょっと寝てろ」
「……そか、ありがと……あんま……無理すんな……」
もう一度枕に顔を沈めると由羅にポンポンと頭を撫でられて、気が付くとまた眠りに誘われていた。
***
由羅と一緒に寝たくせに、オレはしっかりといつも起きる時間まで爆睡していた。
しまった……早起きしてキッチンと風呂の掃除するつもりだったのに……!!
由羅は途中で起きて仕事も風呂も済ませたらしい。
なんで具合悪いやつの方が起きてんだよ……
でもまぁ、朝食は全部食べたし、寝る前よりはだいぶ顔色も良くなっていたので、やっぱり早く寝かせたのが良かったらしい。
「それじゃ行って来る」
「ん、今日もあんまり無理すんなよ?」
言っても無駄だとは思いつつも、お弁当を渡しながら声をかけた。
「あぁ、また昼に連絡する」
「おう。ほら莉玖、パパにいってらっしゃ~い!」
「パッパ、あ~い!」
「行ってきます」
莉玖が機嫌良く由羅に手を振った。
今朝の莉玖はご機嫌だ。
莉玖はオレがこの家を出てから、毎朝オレが来るまでぐずぐずだった。
オレが由羅家にまた寝泊まりするようになって数日。
寝泊まりするのは由羅の体調が良くなるまでだから、あえて朝は今までと同じように由羅に任せていたのだが……
昨夜は久々に由羅のベッドで寝て、しかもしっかりいつもの時間まで爆睡してしまったせいで、莉玖の方が先に起きてしまった。
起きるなりオレを見つけてテンションが上がった莉玖は、結果的にぐずることなく朝からご機嫌なのだ。
う~ん……莉玖のためにはどっちがいいんだろう……
短期間でもオレが泊っている間は朝すぐに顔を見せてやった方がいいのかな……
それとも、やっぱり変に期待させるより由羅に任せてしまった方がいいのか……
というか、由羅と二人っきりなら他に甘えられる人がいないからそんなにぐずらないと思うのだが、莉玖はしばらく待てばオレが来るとわかっているのか、結構粘る。
由羅が寝かしつけていた時にもあれだけ粘られたとすれば、由羅も寝不足になるはずだ……
良く言えば“粘り強い”、悪く言えば“しつこい”。
これは……イヤイヤ期になると手を焼くかもしれねぇな~……
だけど、由羅の入院中、ちょこちょこ杏里の家にひとりで預けられていたわりには落ち着いているので安心した。
ベテランママの杏里がしっかりと莉玖をみてくれているし、一路たちもよく相手をしてくれたおかげだと思う。
ホントに杏里さんたちにはいつも助けてもらってばかりだな……
オレももっとしっかりしなきゃ!!
「よ~し、莉玖~!今日も一日頑張るぞ~!」
「おー!」
「はい、それじゃ朝の体操始めま~す!」
「あーい!」
「いくぞ~?ミュージック~?スタートォ~~!」
「とぉ~!」
『すたーとぉ~!』
オレは莉玖の好きな幼児向け番組の曲を流しながら、二人……と一人で朝の体操を始めた。
***
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