199 / 358
両手いっぱいの〇〇 第199話
「綾乃、準備できたか?」
「もうちょっと~……あ、由羅、莉玖のオムツ足しておいて。あとぉ~……えっと……あ、こら待ちなさい莉玖!ちゃんとズボンもはいてから!そのままじゃお外行けないぞ~!」
オレがズボンを広げているちょっとの隙に、莉玖がオムツ姿で部屋の中をハイハイして逃げる。
歩けるようにはなったが、まだ今はハイハイの方が移動スピードとしては早いので、オムツ交換や風呂上りなど服を着たくなくて逃げ回る時はハイハイだ。
「莉玖、オムツ丸出しでお外に出たら笑われてしまうぞ?」
由羅が莉玖を抱き上げて、オレの前にポンと座らせた。
「おしり拭きが残り少ないから新しいのも入れておいたぞ」
「それだっ!!ありがと~!はい、莉玖。こっちの足入れて~……」
「お出かけセットとお弁当とピクニックシートは先に乗せたぞ。他に何か持って行くものあるか?」
「う~んと……あ、靴と帽子!」
「それはもう乗せてある」
「お、準備いいな」
「今日のメインだからな。なぁ莉玖!」
由羅が、莉玖の頭をよしよしと撫でながら話しかけた。
「くっく!」
「いっぱい歩こうな!」
「あい!」
オレは由羅が全快するまで泊まり込むことになったが、朝は由羅が服を着替えさせている。
最初はパパイヤでかなりぐずっていたが、由羅が自宅療養でしばらく家にいて莉玖と一緒に過ごす時間が長かったせいか、少しパパイヤが落ち着いてきた。……気がする。
今の莉玖は歩くことが楽しい時期なので「外に連れて行ってくれるならパパでもいいや!」という感じなのかもしれないが……
***
「莉玖、ここでお水遊びしよっか!パチャパチャできるぞ~!」
「おー!」
今日はちょっと遠出して、子ども向けのいろんな実験をさせてくれる施設や遊具がたくさんある広い公園に来た。
杏里に小さい子でも水遊びが楽しめる場所があると聞いていたのと、広い芝生ゾーンがあるので莉玖もいっぱい歩く練習が出来そうだと思ったからだ。
莉玖はひとりっ子でまだ保育園にも行っていないが、しょっちゅう一路 たちに遊んでもらっているおかげか、あまり同年代の子に人見知りをしない。
むしろグイグイ行き過ぎて相手に引かれることが多い。
今日も莉玖は水遊びを楽しみつつ、同年代の子を見つけるなり熱烈ハグをしようとしていた。
「ぅお~~っと!莉玖~!ちょっと待って!ほら、お友達がビックリしてるから!!……あ~、ごめんね、ビックリしたよね――」
子ども同士のハグは保育園でも癒しの光景の一つだが、お友達同士でお互いにぎゅ~っと抱きつくのと違って、莉玖の場合は初めましての相手にもいきなり一方的に抱きつきに行こうとする。
大抵の親は子ども同士の可愛いコミュニケーションだからと笑って流してくれるが、たまに莉玖の勢いに驚いて泣き出してしまう子もいるので、見知らぬ相手への唐突なハグはなるべくオレが直前で阻止するようにしている。
まぁ、それでも相手の子が泣いてしまうこともあるのだが……
莉玖は相手の子が泣きだすと急いで「どうしたの?だれになかされたの?」というように、心配そうに相手の顔を覗き込んで、よしよしと頭を撫でる。
うん、その姿は微笑ましいし、莉玖は本当に優しくていい子なんだけど……その子を泣かせたのも莉玖なんだよね~……ははは……
いつも行っている公園では、それがきっかけでお友達になることもある。
だが、最強最悪のモンペを知っているオレにとっては、莉玖が見知らぬ相手の子を泣かせてしまった時は……かなりひやひやものなのだ。
「莉玖、いいか?お友達にぎゅっ~!ってする前に、まず挨拶しなきゃだめだぞ?」
「挨拶をすれば抱きついてもいいのか?」
横から由羅が茶々を入れて来る。
「……はい?」
「こんにちは、今からギュッ!ってします。と言ってハグをするのは変じゃないか?」
オレは挨拶したら抱きついていいとは言ってねぇよ!
由羅をひと睨みして莉玖に向き直る。
「莉玖、お友達見つけて嬉しいのはわかるけどな?急にぎゅっ~!ってしちゃうとお友達をビックリさせちゃうんだよ。初めてのお友達にはまずこうやって、おててを握って握手!ってしような」
莉玖の手を握って握手をすると、莉玖が嬉しそうに繋いだ手をブンブンと振った。
「うん、そうそう。少しずつ覚えていこうな」
オレは苦笑しつつ、莉玖の頭を撫でた。
莉玖が誰にでもハグをするのは、たぶんオレや一路 たちがよく莉玖にハグをするからだ。
莉玖もハグは挨拶代わりになっていて、仲良くしてね!の意味でしているのだろう。
だからこそ余計に、それで相手を泣かせてしまうのは莉玖にとっても不本意だろうから、握手での挨拶も覚えてくれたらいいなと思う。
他人との付き合い方は、いろんな子と交流することで身につくものだ。
なので、まだ集団生活を経験したことのない莉玖にとっては、なかなか難しいとは思うが……
「そういう綾乃センセーは誰とも付き合ったことがないらしいがな」
由羅が後ろでぼそりと呟いた。
「響一くん?何か言いましたか?」
“付き合う”の意味が違うわっ!!と蹴とばしたかったが、莉玖の前なので一応怒らずに笑顔で返す。
「いや?何も言ってないぞ?」
「へぇ~?」
帰ったら覚えてろよっ!!
笑顔を崩さずに口パクで言うと、由羅が見ていないフリをして莉玖に話しかけた。
「よし、それじゃ次はパパと行こうか」
「パッパ!」
「あ、ちょっと待って由羅。その前に水分補給して。結構あっちは日差し強いから――……」
莉玖も、オレの姿が見えているので安心しているのか由羅と二人でも嫌がらずに手を繋いでよちよちと水場に戻って行った。
由羅は、なんだかんだで一応オレの話しを聞いていたらしい。
莉玖がまた別の子にハグをしに行こうとしているのを見ると、さっと直前で摑まえて握手をするように促していた。
「あれ?――」
「え?」
そんな姿を微笑ましく眺めていると、近くを通りがかった親子に声をかけられた。
***
ともだちにシェアしよう!