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両手いっぱいの〇〇 第202話

「綾乃もずっと付きっきりだったから疲れただろう?」 「え?あぁ、いや……あれくらいは慣れてるから全然平気」  健太郎が「あやせんせーもあそぼー」と誘ってきたので、オレも二人と一緒に遊んでいた。  遊ぶというか、まぁ、結局オレが二人の子守をしていたわけだが……でも杏里の家でしょっちゅう一路たち四人の相手をしているので、健太郎と莉玖の二人の相手をするのもそんなに苦ではない。  保育園だと大人数をみなければいけないので、あまり長時間特定の子と遊んであげることは出来ないため、健太郎は莉玖と一緒にとはいえ、オレを独占出来たのが嬉しかったらしい。  オレも久々に健太郎と遊べて、健太郎の成長を見ることが出来て、嬉しかった。  でも…… 「あの、今日はごめん」  オレは寝る支度をしつつ、由羅に謝った。 「何がだ?」 「その、仕事中なのに、公私混同っていうか……」 「ああ、別に問題ない。莉玖もいっぱい遊んでもらって楽しそうだったし、だいたい担任していた子を無視するわけにもいかないだろう?」 「まぁ、そうだけど……」 「あれが、例のモンペだったなら話は別だがな」 「え?」  由羅は莉玖が気づくよりも先に、オレが健太郎親子と話していることに気付いていたらしい。  最初はオレを保育園から追い出した例のモンペかと心配したらしいが、すぐに違うとわかったのだとか。 「なんでわかったんだ?」 「あぁ、それは……最初に綾乃のことを調べた時に、その例のモンペの顔も確認していたからな」 「え、マジで……?」 「おい、引くな!そういう鬱陶しいやつとは関わり合いになりたくなかったから、事前に避けるために一応確認しただけだ。同じように育児中なんだから、今日みたいにどこで出会うかわからないだろう?子どもを連れて行ける場所は限られてくるからな」 「たしかに……」  子ども連れで行ける場所は限られてくる。  だから、むしろ今まで担任した子たちに会わなかったことの方がおかしいのかも……  と言っても、まぁ平日オレが莉玖を連れていくのは近所の小さい公園だから、担任していた子たちとは遊ぶエリアが違うわけだし、会う確率は低いか…… 「ふぁあ~……」  オレは欠伸をしつつ大きく伸びをした。  由羅には平気だと答えたものの、暑い中外で遊びまわったのでさすがに疲れた。 「寝るか」 「ん~……」 「おやすみ」  って、由羅がちゃんと寝ているかを確認するために一緒に寝てるんだから、オレが先に寝ちゃダメだろう!?  オレは気力を振り絞るとオレを寝かしつけようとする由羅の手を振り払った。   「わかったわかった。私が眠っているとわかればいいんだろう?」  由羅はそう言うと、いつものようにオレを抱きかかえた。  なんでそうなる……  でもまぁ、この状態なら仕事は出来ないだろうし……うん……由羅も寝るしかないよな……  じゃあ、オレももう寝ていい……か……  ごちゃごちゃ考えていたが結局眠気には勝てなかった。 ***  その日は久々に、保育園で働いていた時の夢を見た。  大勢の子どもたちに囲まれて、オレはずっと笑っていた。  大変なこともいっぱいあったけど、浮かんでくるのは楽しかった思い出ばかりで、心の中がふんわり温かくなって……でもほんの少し……泣きたくなった―― ***

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