203 / 358
両手いっぱいの〇〇 第203話
「――手形?」
「そう。手や足に絵の具を溶いた水をつけて、模造紙の上で遊ぶんだ」
「ほぅ……」
オレは晩飯を食べている由羅に、今日の制作の様子を話した。
***
「よし、莉玖、今日は絵の具で遊ぶぞ~!」
「おー!」
オレはテラスにブルーシートを敷いて、その上に大きな模造紙を敷いた。
先日、健太郎に会った時に、オレの制作が面白かったという話になって、その中でも「あやせんせーのぺたぺたしたやつ、おもしろかった!またしたい!」と言ってくれたので、そんなに喜んでくれるなら莉玖にもさせてやろうと思ったのだ。
これなら、今の莉玖でも楽しめるしな!
「莉玖、じゃあ、足からいくぞ~?はい、ここに入ってみようか」
紙パンツ一枚になった莉玖の手を持って、絵の具を溶いた色水が入っている平たい書類ケースに誘導する。
ちなみに、絵の具は赤ちゃん用の自然素材で作ったものだ。
莉玖が色付きの水を警戒して入りたがらなかったので、先にオレが足を入れてみせると、ようやく莉玖も足を入れてくれた。
「そんじゃそのまま紙の上歩くぞ~?はい、いっちに!いっちに!」
「いっち!いっち!」
「ぺったん!ぺったん!」
「ったん!ったん!」
白い模造紙に青い足跡がついていく。
「ほら、莉玖。後ろ見てみな?これが莉玖の足跡だぞ~?あ~し~あ~と!」
「あ~とっ?」
「うん、莉玖の足跡だ!」
『生まれた時に足形取ったけど、だいぶ大きくなったわね~』
莉奈は感慨深げにつぶやくと、莉玖の足形に手を重ねていた。
いっぱい足跡を付けたあと、今度は手にも絵の具をつけて手形をつけていった。
莉玖は白い模造紙の上をハイハイしたり、座り込んで自分のお腹をペチペチ叩いたりして手形がつくのを楽しんでいた。
「莉玖~いいね~!全身アートじゃねぇか!ボディペインティングってやつだな!」
「きゃははは!」
「将来は芸術家か~?」
「あ~の!て~!」
「うんうん、莉玖の手形がいっぱいだな~!」
『なんだか莉玖の身体がスゴイことになってるけど……莉玖が楽しそうだからいいか!』
「さてと、もういい感じに模造紙も埋まったし、そろそろ水遊びするか!ちゃぷちゃぷしような~!」
「たっぷたっぷ!」
オレは莉玖の全身アート姿を写真に収めると、あらかじめ用意しておいたペットボトルのお湯で莉玖の身体を洗った。
夏場は黒い紙を巻いたペットボトルに水を入れて外に出しておくだけで、すぐにぬるま湯が出来るので便利だ。
***
「身体にも絵の具を?」
「うん、まぁ、絵の具がついた手で身体を触ったらたまたま色がついたから、楽しくなったんだろうな」
莉玖の写真を見せると、由羅が口元を綻ばせた。
「なるほど。楽しんだみたいだな」
「まぁな。でもその後が結構大変だった」
「ん?」
「実はさ……」
***
こういう遊びは夏場が向いている。
絵の具遊びをした後、そのまま外で水遊びを兼ねて絵の具を落とせるからだ。
「はい、流すぞ~。身体ゴシゴシして~」
「ごっちごっち……いやあああああ!!!」
「え?」
「ああああああのおおおおお!!てって~~!!!」
「あ~……」
莉玖は自分の身体に施したボディペインティングが流れていく様子を見て号泣した。
そんなに気に入ってたのか……
「たっぷたっぷいやああああ!!」
「え~、でも莉玖、そのままじゃお部屋に入れないぞ~?」
「やあああああよおお!!」
「いやか~……困ったな~……」
と言いつつ、莉玖の身体にぬるま湯をかけていく。
莉玖は絵の具が流れていくのがイヤで身体を隠そうとしていたが、それが逆に身体をこすることになってしまった。
「あああああのおおお!?ったん !?こ~ !?」
「ん~?莉玖の手形どこに消えたんだろうな~!?あ、ほら莉玖!莉玖の手形さんがもうお家帰るよ~って」
オレはキョロキョロと周囲を見回す仕草をして、排水溝に流れて行く水を指差した。
「ふぇ?」
「あ、ほらほら、見て?ばいばーいって言ってる!ほら、お水さんと一緒にお家帰るって!」
流れていく色水にオレが手を振ると、何が何だかわからないまま、莉玖がつられて手を振った。
「莉玖くんまた遊ぼうね~!って言ってるぞ?」
「も~ね~ !」
「よしよし、莉玖はいい子だな~。また遊ぼうな~!」
「てって、ばっばー!」
***
「え、それで泣き止んだのか?」
「泣き止んだ」
「色水にバイバイで?」
「由羅……こういう時は勢いが大事なんだよ。勢いにびっくりしている隙に何となく納得する話を作ってその勢いのままバイバイって……」
「いくら子どもでもそんなんで騙されるか?」
由羅が半信半疑の顔でオレを見た。
「いつも騙されてくれるとは限らねぇけどな。まぁ、泣き止ませる時の一つの手ではある。今日はたまたまそれがうまくいったって感じ」
「なるほど……」
「ただ、こういうのは迫真の演技が必要だから、オレは笑いを堪えるのに必死だったけどな」
「その様子を見てみたかったな」
「え?」
「綾乃の迫真の演技」
「見なくていいっつーの!」
「なぜだ?」
「だって、あれは……」
子どもの前だから出来るんだよ!!
「と、とにかく!今日はそんな感じ!そんじゃ寝るか!」
「そのあとは?」
「そのあとは普通に水遊びして終わりだ!ほら、寝る用意するぞ!」
オレは途中で話をぶった切った。
あ~くそ!泣き止ませた方法は話す必要なかったよな別に……
水にバイバイとか、子どもが言えば可愛いけどオレが言うとただの変な人じゃねぇか!
何でもかんでも由羅に報告するクセどうにかしねぇと……
何かオレ自分から笑われるネタを提供してる気がする……!
***
ともだちにシェアしよう!