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両手いっぱいの〇〇 第204話

「え、完治した?」 「あぁ、完治だと言われた。ただ、今のようにちゃんと睡眠と食事をとって、仕事をしすぎないように気を付けていなければすぐにまた悪化する可能性は高いと言って脅された」  由羅が晩飯を食いつつちょっと顔をしかめた。  5月に倒れて入院してから、およそ2ヶ月。  小さめの胃潰瘍だったというわりには時間がかかった気がするが、ストレスの多い立場なのでまだこれでも治りが早い方なのだとか。  でも、ってことは、完全に治ったわけじゃないんだし、完治とは言わないんじゃないのか?  薬もまだ出てるみたいだし……ってことは、やっぱりまだ食事は軽めがいいか…… 「そっか……ま、まぁ、でも良かったじゃねぇか!」 「あぁ……綾乃のおかげだな」 「ん?」 「一応自分でも気を付けているつもりだが、私はどうしても自分の身体よりも仕事の方を優先しようとしてしまうからな。綾乃がいなければもっと長引いていたはずだ」 「ああ、まぁ、大したことはしてないけどな」  いや、マジで。  なんだかんだで早寝早起きの健康的な生活になったおかげでオレも調子いいし。  食事もほとんど離乳食や幼児食の延長だし、むしろ別々に作らなくていい分ラクっつーか……   「とりあえず、完治したっつっても、先生が言ってるみたいに無理をすればすぐにまた悪化しちゃうみたいだし、なるべく仕事も無理すんなよ?早寝早起きは継続!いいな?」 「あぁ、そうだな」 「食事はまぁ、様子を見つつ徐々に普通のメニューに戻すよ。いきなり脂っこいのを食べるのはキツイだろうし。味付けも薄めで……お弁当の内容もちょっと変えて行かなきゃだな」  でも野菜たっぷりスープはやっぱり必要だよな~。  後は、雑炊を少し柔らかめのご飯に変えて…… 「まだお弁当作ってくれるのか?」 「へ?」  明日からのお弁当の内容を考えていると、由羅がキョトンとした顔でオレを見た。  思わずオレも同じくキョトンとした顔で返事をする。 「あ、いや……お弁当は胃潰瘍が治るまでなのかと……」  ん?どういうこと?  それはつまり……オレのお弁当はもう…… 「……いらねぇの?」 「いる!」 「んじゃ作ってやるよ。お弁当があれば昼飯を食いっぱぐれることはねぇだろ?」 「あぁ、そうだな」  以前は昼飯は社内食堂か外に食べに出ていたらしいので、仕事が忙しくてタイミングを逃し食べ損なうことが多かったらしい。  今はお弁当を持って行っているので時間が出来ればすぐに食べられるし、食べる時にテレビ電話をしているので、莉玖見たさに必ず食べる時間を確保するようになったようだ。 「だが、朝大変じゃないか?」 「え?別に作る内容がちょっと変わるだけだし、どうせオレも朝早く起きてる……あ゛……」  そうだった……由羅が心配しているのはそういうことか。  オレは今、由羅がちゃんと寝ているかを確認するために由羅家に泊まりこんでいる。  由羅と一緒に早寝をするせいで、オレも朝早く目が覚めるので、それから前日やり残した掃除や片付けをして、お弁当を作っている。  つまり、胃潰瘍が治ったということは…… 「あ~……そっか、そうだな……もう泊まる必要ないのか……」  期間限定だもんな…… 「え~と、まぁ、うん、前日に仕込んでおけば大丈夫だっ!」  晩飯を作る時にお弁当のおかずもある程度仕込んでおけば……後は…… 「朝早めに来てもいいだろ?どうせお前起きてるんだし!」 「綾乃、無理に……」 「別に無理じゃねぇよ。ここからマンションまですぐだし」 「……無理に帰らなくてもいいぞ?」 「は?」 「だから、このままここに残ってくれても構わないと……」 「あのさ、忘れてるみたいだけど、オレを追い出したのはお前だぞ?」  別に、由羅がオレを追い出したわけではないということはもうわかっている。  でも、オレに何の相談もなくいきなり話を進めて、そのせいで無理をして体調崩して倒れたことに関しては……オレは未だにちょっと怒っている。  ので、ちょっといじけたフリをした。 「追い出したわけじゃない!前にも言っただろう!?あれは……綾乃に嫌われたと思ったから、せめて仕事くらいは働きやすい環境をと……」 「ブハッ!わかったわかった。まぁ、とにかく……お弁当は作るよ」  由羅が慌てている姿が何となくおかしくて、ちょっと笑ってしまった。 「んで、明日の夜には帰る。通いで弁当作るのが大変かどうかやってみないとわからないし……でも、明日のお弁当の仕込みは何も出来てねぇから、今日は泊めてくれ」 「もちろん!いつでも綾乃の好きな時に泊ってくれて構わないぞ?本当に、私としては今のままでも……いや、ダメだな。それだとまた前と同じだ。綾乃が大変なだけだな。すまない。綾乃に任せるよ。無理のない程度に……」 「はいはい、そりゃどうも!」  別に、近いから通うのはどうってことない。  お弁当だって、きっと通いでもどうにかなる。  でも……このままここに残ってもいいと言われてちょっとホッとした自分に戸惑う。  オレ……残りたいのかな……?  抱き枕にされるのは暑苦しいしウザいけど……嫌いじゃない。  由羅と一緒に寝るのは……イヤじゃない……  だけど、自分から残りたいって言うのは何となくイヤで……  由羅がもう少し強引に引き留めてくれたら……と一瞬考えてしまった。  何考えてんだオレ…… ***

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