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両手いっぱいの〇〇 第206話
物がほとんどないオレの部屋の中に、大の男が三人、車座になっていた。
「粗茶ですが……」
紙コップにペットボトルのお茶を入れて二人の前に置く。
この紙コップは前回亮が遊びに来ると言った時に一応買っておいたものだ。
莉玖はオレの布団のど真ん中で大の字になって寝ていた。
二人とも、エレベーターに乗ってからはお互いに顔を背けて一言もしゃべらなかった。
大声で言い合いされるよりはマシだけど、オレの部屋に入ってからも無言なのは止めてくれませんかね?
あの、とりあえず落ち着いて話を……ん?っていうか、何の話し合いをするんだ?
「……綾乃……家電製品などはお前が自分で選んだ方がいいだろうと思ったから任せたのであって、必要なものは遠慮なく買えと言っておいたはずだが……?」
ようやく喋ったと思ったら、由羅の口から出たのはまさかのオレへの小言だった。
由羅がこの部屋に入ったのは、オレがここに引っ越した日に布団を運ぶのを手伝ってくれた時以来だ。
あれからほとんど物が増えていないことに驚愕して、由羅が憮然とした面持ちでオレを見た。
「あ~、うん。必要なものは買ってるぞ?ほら、冷蔵庫と電子レンジはある!」
「それだけだろう?」
「でもオレ、飯も風呂も洗濯も由羅のところで済ませてるから特に必要なもんなんてねぇし」
「休みの日はどうしていたんだ?」
「あ~休みの日は……別に一日くらいだから洗濯は翌日まとめてしてるし、飯は適当に食いに行ってる」
「ちゃんと食っているのか?」
「大丈夫だって!ちゃんと食ってるよ!あ、ちょっと由羅!?」
「食器も全然ないじゃないか」
由羅が、アポなしでやってきて嫁の粗探しをする姑のように部屋中をチェックし始めた。
「今更すぎるだろ。メイちゃんを追い出してから何か月経ってるんだよ」
由羅とオレのやり取りを見ていた亮が呆れたように鼻で笑った。
いやもう、ホントその通りなんだけど……
「そうだな、ちゃんと確認しておくべきだった」
「いやいや、別にこれで不自由してねぇから!!」
「だが、何もないぞ?冷暖房もないじゃないか……」
「あ、ごめん。暑い?オレ別に夜は窓開ければ全然大丈夫だから……はい、セルフクーラー」
オレは駅前で貰ったうちわを二人に渡した。
「セルフクーラー……」
由羅が目を丸くしてうちわを見た。
「人力扇風機とも言う」
「ぶはっ!懐かしいぃ~!ガキの頃よく言ってたよな~。交替で扇ぎあいしてさ~」
「そうそう、みんなでジャンケンしてな」
亮が懐かしそうにうちわでオレを扇いだ。
「窓を開けて寝るのは防犯面で危険じゃないか?」
由羅が窓を見て眉をひそめた。
「いやまぁ……1階とか2階ならそういう心配もあるかもだけど……だいたいオレの部屋に入ったところで、この状態を見れば持って行くものもねぇってわかるだろ?」
「物を盗るのだけが目的とは限らないだろう?」
「え?だって……」
他に何かあるか?と言いかけて、そういえば最初に莉玖の事情を聞いた時に、由羅はオレも巻き込まれる可能性があるって言ってたっけ?
もしかしてやけに防犯にうるさいのって、それ対策ってことか?
「あ~……うん、そうだな。気を付ける」
亮の前では大っぴらに話せないので、とりあえず素直に返事をする。
「冬もこれじゃ寒いだろう?次の休みの日にエアコン買いに行くぞ」
「ふぁ~い」
「メイちゃん!そいつの次の休みまで待たなくても、エアコンなら俺が一緒に買いに行くぞ?」
由羅とオレの間に亮が割り込んで来た。
「え?あぁ、ありがと。でも、どうせ由羅が休みの日じゃねぇとオレ休み取れねぇし」
「ぅ~~~……なら、休みの日に!!俺がついていく!そうすりゃ休みの日までそいつの顔見なくてもいいだろ!?」
「おい、まるで綾乃がイヤイヤ私の顔を見ているような言い方はやめろ」
「あんたの顔を四六時中見るのなんてイヤに決まってるだろ。何で休みの日にまで嫌いなあんたの顔を見なきゃいけねぇんだよ!」
由羅と亮がまた言い合いを始めた。
そうだ、忘れてた。
リョウは何か誤解してるんだっけ?――
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