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両手いっぱいの〇〇 第209話

「って、弁当!!」  由羅の弁当を用意しなきゃいけないことを思い出して、オレは慌てて起き上がった。 「ん?んはよ~メイちゃん。早いね~」 「おはよう綾乃」 「あ~の!まんまっ!」 「ぇ?あ、おはよ~……ございます?」  飛び起きたオレの目に入って来たのは、由羅と亮と莉玖が三人で仲良く莉玖のおやつを食べている光景だった。 「えっと……何やってんの?」 「ん?リクにおやつわけてもらってる。リクは優しいな~!」  亮が莉玖の頭をよしよしと撫でると、莉玖がまんざらでもない顔で笑った。   「いや、莉玖が優しくていい子なのは知ってるけど……なんで?ちょっと、え?だって二人とも昨日はなんか言い合いしてなかったか?」 「あ~、それがさ……」  どうやらあの後も由羅と亮は言い合いをしていたらしいのだが、どちらの方がオレのことがより好きかという話から、どこが好きかという話になって、最終的にオレが鈍いせいで全然想いが届かないから大変だ……という話になり意気統合してしまったのだとか……  どういうことだよ!?  いや、仲良くなったのは良かったけど……一晩でそんなに変わる!?   「ん?っていうか、二人とももしかして徹夜か?」 「あ~ちょっと横になって寝たけど……」 「莉玖が目を覚ましてしまってな。もう寝そうにないからとりあえずミルクとおやつを……」  時計を見ると、まだ朝の5時だった。   「うん、で、なんでお前らまで莉玖のおやつを食ってんだ?」 「リクがちょっとわけてくれるっつーから、貰った」 「あ~の!あ~ん!」 「ん?ああ、ありがと!」  太っ腹な莉玖は、オレの口にもおやつを放り込んでくれた。 「おいしぃな~!」 「な~!」 「って、それより……こんなんじゃ飯足りねぇだろ!?ん~と……」  オレはとりあえず非常食の缶詰やおかゆのレトルトを取り出した。   「綾乃はいつもこれを食べているのか?」 「んなわけあるか!いつも由羅ん家で食ってるだろ!?」 「休みの日はこれを?」 「いや、休みの日は食いに行ったり、前日に買っておいたりするから……これは、何かあった時のために置いてあるだけだ」  ひとり暮らしをしていたら、何が起こるかわからない。  そうじゃなくても、災害とかで何が起こるかわからない世の中だしな。  缶詰は安売りになっていても賞味期限が数か月後というものもあるので、長期保存の非常食じゃなくて、ローリングストックとか言うやつにすれば、安売りの物でも十分だ。  休みの日に天気が悪かったり、具合が悪かったりして出かけられない時にはこういうのを食べてやり過ごしている。 「ちなみに、由羅の家にも非常食はおいてあるぞ?」 「あぁ、キッチンのあの棚にあるやつか」  オレがいない時でもわかるように、棚に『非常食』と書いて貼ってある。 「そそ、あれもローリングストックにしてあるから、賞味期限は短いけどな。でもちゃんと賞味期限は常に確認してあるから、大丈夫だぞ?」 「ん?だが、あそこに入っている非常食はレシートに入ってないぞ?それに、食事にこういうものが使われていた覚えはないが……」 「……あ゛」  くそっ!余計なこと言った……この記憶力おばけめ!!   「綾乃?もしかして……」 「あ~……えっと……コレがそうですけど?」  つまり、由羅家の非常食はオレの金で購入している。  ちゃんと賞味期限は常に確認して、新しく購入すると由羅家のものと交換してオレが持って帰って来て家で食う。  由羅家に住み込んでいた時は、オレが昼飯に食っていた。  だって、由羅と莉玖にはちゃんとした手作りの料理を出していたし……非常時でもないのに缶詰とか出せないし……? 「うちの非常食なんだから、私が払うのが当たり前だろう?」 「でも、今のところ食ってるのはオレだし?それに常に食ってるわけじゃねぇよ?」 「だが、綾乃だけが食わなくても……」 「ま、まぁ、ほら、こうやって役に立ってるし!由羅のとこに置くのとうちに持って帰って来るのとで一石二鳥!みたいな?」 「綾乃が持って帰るのは別にいいが、代金はちゃんとうちから……」 「はいはいはい、ほら、その話はまた後で!とりあえず今日は……リョウはうちから直接仕事行くだろ?飯食って用意しなきゃ!」 「……ほらな?いつもこんな調子だ」  由羅がため息を吐きつつ亮を見た。 「わかるわかる。メイちゃんって都合悪くなるとそうやって誤魔化すんだよな~」  亮も由羅に同調してうんうんと頷く。 「こらそこ!んなことで仲良くなるなっ!」 「でもまぁ……」 「そんなところが好きなんだがな」 「そんなところが好きなんだけどな」  オレを無視して二人が声を揃えた。  最後微妙に揃ってねぇけどな!? 「あ~もう!ほら、食うぞ!あ、由羅と莉玖はどうする?」 「せっかくだから私もこっちを食ってみたい」  ですよね~…… 「う~ん、でも、缶詰は結構味付け濃いから……とりあえず、こっちのお粥に混ぜてリゾットみたいにすっか……ちょっと待ってろ」  オレはとりあえずあるものを使って何とか即席のなんちゃってリゾットを作った。  なんせ、ろくに調理器具もないので、できることは限られるが……そもそもが非常食なので火を使わなくても食べられるものばかりだ。 「――あ、意外とイケる!」 「うん、うまいな」 「マジで?オレ味見してねぇけど……あ、ホントだ。アリだな!」    三人でワイワイ言いながら非常食を食うのは、キャンプでもしているみたいで意外と楽しかった。  莉玖も非常食が気になったようで、みんなからわけてもらうために愛嬌を振りまいていた。  なんだか、へんてこな図だけど……リョウと由羅が仲良くなったみたいだし、ま、いっか! ***

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