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両手いっぱいの〇〇 第210話

 なんだか昨夜から今朝にかけてドタバタだったが、何とか無事、二人を仕事に送り出した。  ちなみに、由羅はオレのマンションに何をしに来たのかと言うと…… 「あぁ、渡すのを忘れるところだった。綾乃の携帯を持って来たんだ。キッチンに忘れていたぞ?」 「え、マジで!?うわ、ありがと!」  由羅が寝る前に水を飲もうとキッチンに入ったところ、オレの携帯があることに気付いて、眠っている莉玖を連れてわざわざ届けに来てくれたらしい。  そうだ、携帯と言えば、なんだかリョウもよくわからないことを言っていたな~……  オレにかけたのに繋がらなかったとか何とか……  今朝その話をすると、亮は由羅をチラッと見ながら 「あぁ、それはもう原因がわかったからいいよ」  と言っていた。  何がわかったんだか全然わからねぇ……  オレが自分で気づかないうちに着信拒否にでもしちゃってたのかなぁ……?  う~ん……まぁ、わかったっていうからもういいか!   *** 「よ~し、それじゃ莉玖、これをペッタンしていくぞ~!」  数日前、莉玖と一緒に手形や足形をいっぱいつけて遊んだ。  その時の模造紙を乾かして取っておき、大きな魚の形に切り抜いていたのだ。  オレはその紙の裏に、壁紙に貼っても跡が残りにくい両面テープを貼って、壁にべったりと貼り付けた。 「莉玖はこっちのお魚を貼っていってくれるか?いっぱいあるから大変だぞ~?頑張れ~?」 「あ~い!った~ん!った~ん!」  莉玖には、余った部分の紙で切り抜いた海の生き物を好きに貼らせていく。  壁一面が海の中になるような壁面制作をする予定だ。   「いいね~、お魚さんいっぱいだ~。じゃあ、ここら辺に岩でも貼ろうかな」 「わ~?」 「うん、でっかい石だな」 「お~!」 「じゃあ、次、莉玖はカニさん貼ってくださ~い」 「あ~に?」 「か~に!かにかにかに~!」 「きゃははは!」  オレが両手をチョキチョキして横歩きをして見せると、莉玖が指を一本立てて同じように動かした。  惜しいな~!それだと鬼さんだぞ~?  そろそろ指二本立てる練習しなきゃだな~。  でもこれはこれで可愛いので、後で由羅に見せてやろうと思い、写真に撮った。 『なるほど~、海の中ね~。いいわね、夏っぽい!』 「ほんとは下地を青色とか水色に出来れば良かったんだけどな~……」  さすがにこの壁一面色を変えるには模造紙が大量に必要だし、貼る時間がないので諦めた。   *** 「壁紙の色?ペンキででも塗るか?それか壁紙を張り替えるか……」 「ふぁっ!?いやいやいや、そんな塗り替えるとか張り替えるとか無理だし!だって、海は夏の間だけだぞ?せいぜい2か月間だけだ」  帰宅した由羅に壁面の下地の話をしたら、まさかの返答に思わず素っ頓狂な声が出た。   「姉が言っていたが、最近は後できれいにはがせるノリもあるらしいぞ?」 「いや、あるのはオレも知ってるけど……でも貼る時間がねぇよ」  通いになっている今はオレが制作の準備に使えるのは昼寝の時間の中のほんの数分だけだ。  住み込みの時なら休みの日に……いや、一日で出来るとは限らないので、住み込んでいても難しいかもしれない。   「それもそうか。なんなら手伝うが?」 「いやいやいや、別にほら、下地が白でも問題ねぇだろ?ただちょっとそう思ったって話で……」  そもそも、歩き始めた好奇心旺盛な莉玖をみながら壁紙を貼るなんて絶対に無理!! 「そりゃまぁ、白でも問題はないが、水色か青色の方が海の中っぽくていいとは思うぞ?……ひとりでは無理だから諦めるというなら私が手伝うし、貼っている間だけ姉に莉玖をみてもらうことだって出来るんだ。方法はいろいろあるから、お前がやりたいようにやれ」 「あ……うん……ありがと」  まさか由羅がそんなに真剣に方法を考えてくれるとは思わなかったので、ちょっと驚いた。  でもまぁ、実際にするとなれば大変なので、さすがに貼り替えはしないけど!!  一年中海の中にしておくわけにはいかないしな~……  だけど、由羅がこうやって一緒に考えてくれるのは助かるし……嬉しい。   「なんだ?」 「ん?」 「やけに機嫌良さそうだな」 「そうか?気のせいだろ!」  オレはにっこりと笑うと由羅の背中をポンと叩いた。 ***

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