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両手いっぱいの〇〇 第214話
……由羅に抱きしめられるのは久々な気がする……
通いになったら同じベッドで寝ることもないし……当たり前と言えば当たり前だけど……
でもよくわかんねぇけど、なんかこれ落ち着くんだよな~……
「綾乃?まだ怒ってるか?」
頭の上から少し申し訳なさそうにオレの様子を窺う声がした。
あ、そうだった。
由羅はオレが怒ってると思ってるんだっけ?
「え?いや別に?っていうかそもそもオレ怒ってねぇけど?」
ごめん、オレ普通にまったりしてた……
「そうか……え?怒ってないのか?」
「ちょっとムカついただけ」
「それは……怒るのとは違うのか?」
「……さぁ?まぁ、どっちにしろもう怒ってねぇよ」
「そうか……あ~……綾乃?」
「なんだよ?」
「いや……何でもない」
オレが抱きついたまま離れないせいか、由羅は一度緩めた腕にもう一度力を入れた。
「綾乃……好きだ」
「ん~?あぁ、もういいって。ホントにそんなに怒ってねぇから。名前弄られるのは慣れてるし、さっきのはオレが話題振ったようなもんだし……」
「そうじゃなくて……いや、名前が好きなのは本当だが……綾乃のことが好きだと言ったんだ」
「……それはもう存じておりますが?」
何だよ急に。
もうそれはわかってるって!
だから、一応オレも由羅のことはリョウとは違う意味で好きだって気づいたし、一応……両想い?になったんだろ?
「そうだな。綾乃がハッキリと亮に言ってくれたのは嬉しかった。だが、両想いとなった後も私たちの関係はそのままだ。まぁ、私の自業自得ではあるが……」
だって、オレには家政夫として傍にいてくれればいいっていったじゃねぇか。
「綾乃が私の気持ちを信じてくれるまでは、傍にいられるだけでいいと思っていた。だが、本当はもっと一緒にいたい。もっと触れていたい」
ん?どういうこと?
「……ほぼ毎日一緒にいるし、今だって触れてますけど?」
「そうだけど、そういう意味じゃなくてだな……もっとこう……恋人らしいことがしたい!」
「……恋人じゃないのに?」
っつーか、恋人らしいことってなんだよ。
そもそも恋人とか付き合うとかがどうでもいいって言ってたのはお前の方だろ?
由羅にとって恋人って一体何なんだ?
「ぅ……でも、じゃあこのハグは?」
「ハグは親しい人とならするだろ?」
「……亮とも?」
「リョウともするけど?」
「そうか……」
由羅が若干しょぼんとなった。
ハハーン、なるほど。
リョウに何か言われたんだな?
仲良くなったとは言ってたけど、リョウもオレのことが好きだとか何とか言ってたから、触発されたってことか?
……ん?いやいや、オレも何言ってんだ……
触発されるって何をだよ!
「ただまぁ……リョウとはこんなに長い時間はしないけどな」
「それはどういう……」
「さてと、そろそろ帰る」
オレは壁の時計を確認して、由羅から離れた。
「綾乃!話がまだ途中だ」
「え?あ、そういや水族館だっけ?一緒に行くんだろ?いいよ。明日弁当のおかずの買い出しに行って来る」
「あぁ、それは頼む」
「それじゃ、また明日な」
「え、ちょっ、綾乃!?」
「由羅、ちゃんと寝ておけよ?もしちゃんと寝てなかったり仕事で無理するようなら明後日の水族館は延期すっからな!?」
「え、あぁ、はい」
「よし!おやすみ」
「……おやすみ」
由羅の使った食器を手早く洗ってエプロンを脱ぐと、言うことだけ言ってさっさと由羅家を後にした。
……恋人ねぇ……一体何を考えてんだか……
***
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