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両手いっぱいの〇〇 第215話

 翌日は雨だった。  天気予報では曇だったのにな~……  雨でも買い物に行けないわけではないが、ベビーカーにカバーをつけていくのは結構大変だし、何だか雨が勢いを増しているような気がする……  もう少し待ってみるか?  それか最悪冷蔵庫にあるものでどうにか明日のお弁当も作るか……  でもな~、せっかくのお出かけなのに余り物でお弁当っていうのもな~……   「う~ん……困ったな~莉玖ぅ~~!!」 「な~」  オレが腕を組んでリビングの掃き出し窓に立ち、唸りながら外を見ていると、莉玖も隣に立って同じように腕を組んで難しい顔をした。  腕が短すぎてちゃんと組めてないけどな?   『やだ、莉玖ったら綾乃くんの真似してるぅ~!可愛いぃ~~!』  莉奈が両手の親指と人さし指で四角を作り、パシャパシャと写真を撮る真似をした。 「よし、早く雨が止みますように~って、てるてる坊主でも作るか!」 「あーい!」  莉玖と一緒にてるてる坊主を作っていると、杏里から電話がかかってきた。 「杏里さん、おはよーございます」 「おはよう、綾乃ちゃん。今日買い物に行こうと思うんだけど、一緒にどう?」 「行きます!!行きたいです!!めちゃくちゃ助かります!!買い物行きたかったんですよぉお~~!でも雨だからどうしようかと……」 「そうなのよね~、急に降ってきたし、この雨だとさすがにベビーカーで出かけるのは大変でしょう?じゃあ、いつもの時間に行くわね」 「はい!ありがとうございます!」  ただの電話に向かって90度のお辞儀をしたオレを、莉玖が不思議そうに眺めていた。  う~ん、オレってば、日本人だなぁ~。  天気予報で事前に雨だとわかっている時は前日に数日分買い溜めをしておくのだが、今日のように天気予報が外れて急に雨が降って来た時などは、杏里がこうやって買い物に誘ってくれることがある。  でもそれは杏里の都合によるので、いつも誘ってくれるとは限らないし、オレから「雨が降って来たから買い物に連れて行ってください」とは……図々しすぎて言えない。  今日はたまたまタイミング良く誘ってくれたけど、夏の間は急に天気が崩れることがあるし、普段から買い溜めしておいた方がいいな。   *** 「あ~もう、ホント助かりました!杏里さん神ぃ~~!」  オレは明日のお弁当の材料だけではなく、数日分の材料も買ってホクホクしながら帰宅した。 「ふふふっ、大袈裟ねぇ。それに、私じゃないわよ」 「え?」  荷物で両手が塞がっているオレの代わりに莉玖を連れて入ってくれた杏里が、莉玖をベビーサークルにおろしながら笑った。 「どこかの誰かさんがね「雨が降って来たから買い物に行けずに困っているはずなんだ。莉玖がいるから無茶はしないと思うが……時間があれば買い物に連れて行ってやってくれないか?」って電話してきたのよ」 「……え、由羅が?」 「明日は水族館に行くんでしょ?」 「あ、はい。由羅がもうすぐ莉玖の誕生日だし、連れて行ってやろうと思うって……」 「そう……最初はね、私が誘ったのよ」 「杏里さんが?」 「うちの子たちを水族館に連れて行くから、莉玖も一緒にどう?って」 「へぇ……?」 「そうしたらね……綾乃ちゃんも誘って三人で行くからいいって」  ん?杏里さんに連れて行ってもらえば別にオレいらなかったんじゃねぇの? 「あの子ね……綾乃ちゃんとデートがしたいんですって!」  杏里が口元に手を当てて、なぜか嬉しそうにうふふと笑った。 「それなら莉玖は私がみるわよって言ったんだけど、莉玖を預けてデートに誘うと綾乃ちゃんに怒られそうだし、莉玖とも水族館に行ってみたいからって」 「え、デート……なんですか?」 「そうみたいよ?」 「デートって……何でしたっけ?」 「あらやだ綾乃ちゃんったら。デートは好きな人とお出かけすることよ?」 「あ~……なるほど」 「綾乃ちゃんと莉玖と三人で出かけるのが楽しみなのよ。あの子があんなにはしゃいでるのは……年末の旅行に行くって聞いた時以来かしらね」  へ?はしゃぐ?由羅が? 「まぁ、仏頂面は変わらないけど、私にわざわざ報告してくるところなんて、可愛いじゃない?」 「あ~……ははは。まぁ……そう……ですね」  あの仏頂面を可愛いと言えるのは杏里が由羅の姉だからだと思うが……  いや、オレもあいつのことが可愛いと思う時がないわけじゃねぇけど……って、何言ってんだオレ!?  オレは曖昧に笑った。 「綾乃ちゃん、明日は楽しんで来てね!」 「あ、はい」  その後も、杏里は最近の由羅の変化について、子どもたちのことについて、旦那のことについてなど、とりとめのない話を弾丸のように話し、子どもたちのお迎えに行くために大慌てで帰っていった。 ***

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