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両手いっぱいの〇〇 第217話
「……はれ?」
『晴れてるわよ~?良かったわね!』
寝ぼけて部屋の中を見回すオレに、莉奈がのんきな返事を返して来た。
オレは天気を聞いたわけじゃねぇよ!!
「おはよう。具合はどうだ?」
「由羅……なんでここにいるんだ?」
「私の部屋だからな」
由羅がいつも通りの仏頂面で返事をしながらオレの額に手を当てた。
そうでした……
マンションの部屋よりもこっちの部屋の方が見慣れ過ぎていて、寝起きだとたまに自分の部屋がどっちかわからなくなる。
「熱はなさそうだな。気分はどうだ?」
「気分?……すんげぇ寝た気分」
「そうだな。7時間くらいは寝たんじゃないか?」
「マジか……」
どうやらオレはソファーで横になってそのまま寝てしまったらしい。
由羅がオレを由羅のベッド に運んだってことか……
「由羅、晩飯は?」
「あぁ、食べたぞ?飯をよそうくらいは自分でできるからな」
「そうか……って、え、今何時だ!?オレ、お弁当の準備なんもしてねぇ!」
「まだ朝の5時前だ。心配しなくても時間は大丈夫だが……それより今日出かけられるのか?無理なら今日じゃなくても……」
「いっぱい寝たから大丈夫だよ。ちょっと弁当作って来る!」
オレは慌てて起き上がると、お弁当を作るために一階に下りた。
***
『いいお天気になりそうよ~!水族館楽しみね!』
「そうだな~。暑くなりそうだなぁ~……」
夏は食中毒に気を使う。
本当はあの二人には薄味がいいんだけど、食中毒のことを考えると少し濃い味付けにした方がいいんだよな~……
まぁ、汗もかくから熱中症対策にもちょっと塩気を濃いめで……なるべく傷みにくいメニューで……後はしっかり冷まして保冷剤と保冷バッグで……
昨夜、お弁当の下準備を何も出来ていなかったものの、起きたのが早かったので、何とか莉玖たちが起きてくる頃には間に合った。
「おはよ~!莉玖~!」
「あ~の!ぉあよ~!」
目を擦りつつ……なんてことはなく、お目目パッチリで絶好調の莉玖が元気に挨拶を返してくれた。
本格的なイヤイヤ期を前にようやくパパイヤが少しマシになってきたらしく、朝は由羅と二人っきりでもあまり嫌がらなくなった。
オムツを替えるのも服を着替えさせるのも、泣いて暴れなくなった分、由羅も少しやりやすくなったらしい。
由羅も莉玖も少しずつ成長してるってことかな~。
「お弁当はもう出来たのか?早いな」
「うん、もう少し冷まして出かける前に保冷バッグに入れる。朝飯用意するからちょっと待ってろ」
今日の朝飯はホットサンドだ。
莉玖はチーズが好きだし、ホットサンドは簡単に作れるので急いで作る時には便利だ。
おにぎりと一緒で、自分で手に持って食べられるし、いろいろ挟んで食べられるし……
「はい、お待たせ~!」
「パン!」
「うん、ホットサンドだぞ~。しっかり持って食べるんだぞ?」
「あーい!い~てんあちゅっ!」
「はい、どうぞ」
莉玖はだいぶ言葉が増えて来た。
以前までは「いただきます」は「あちゅっ!」と最後の二文字だけだったのに、最近は一応ごにょごにょとそれらしく音をはめて言おうとする。
この時期の幼児語は面白い。
本人は一生懸命真似をして喋っているつもりらしいが、宇宙語だったり謎の単語だったりが生まれて来る。
保育士にしてみれば、メモを手放せない癒しの時期なのだ。
子どもの記録にも残しておきたいし、保護者にも話してあげると会話が盛り上がる。
莉玖の記録ノートにもここのところ毎日『莉玖語録』が増えている。
今日も水族館でいっぱい喋ってくれるといいな~。
***
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