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両手いっぱいの〇〇 第219話
「やあああのおおおお!!あ゛っち゛ぃいいいい!!」
「は~いはいはい、お魚さんは後でゆっくり見えるからな~。ほら、莉玖~、イルカさんだぞ~!?……あ、パパ、先に席取っといて。出来れば真ん中から上の方な」
「わかった」
「いんたやああのおおお!!」
「イルカさんイヤか~?そうか~、綾乃はイルカさん好きだけどな~。あ、ほら……」
オレたちは泣き叫ぶ莉玖を抱っこして宥めながら急いでイルカのショーがある広場にやって来た。
由羅に席取りを任せてオレはご機嫌斜めな莉玖と一緒にプールの前に行く。
着いた瞬間、ちょうどイルカが泳いできてプールの水が溢れたので、プールの前にいた子どもたちから歓声があがった。
「や゛ぁあ……ふぇ?」
莉玖が歓声に驚いて泣き止み、何事かとキョロキョロと周囲を見回した。
「おしいな~莉玖。見てなかったのか~?今イルカさんが泳いできたんだぞ~?」
「いんた?」
「うん、イルカさん!また来てくれるからあっち見てみな?」
「あっち?」
「そうそう、あ、ほら、来るぞ~?」
イルカが子どもたちの前で軽くジャンプをして、わざと客席に向かって水しぶきをたててくれた。
「キャ~~!!あ~~の!あ~~の!」
莉玖が口をあんぐりと開けて歓声をあげると、視線はイルカのプールから離さずに、抱っこしているオレの顔をバシバシ叩いては「あれを見ろ!!」と言うようにイルカのプールを指差した。
「うんうん、あ痛っ、うん、スゴイな!って、ちょっ、莉玖、顔は止めてくれ~!」
「あ~~の!あっちぃ~~!」
「ん?あぁ、また泳いできてくれるから待ってな。イルカさんスゴイだろう?」
「うんうん、いんた~ん !」
さっきまで号泣してたのに、もうすっかりイルカに夢中だ。
しばらくしてショー開始のアナウンスが入ったので、オレたちは由羅の元へと移動した。
「席取りありがとな。良い場所取れたな」
「あぁ、私がここに座った時はまだ結構空いていたんだ。あとから一気に人が増えた。それより、子ども連れは前の方に行っているみたいだが、いいのか?」
「うん、前に行くと水しぶきかけられるからな。それを経験させてやるのもいいけど、オレたちもかかるからカッパとか用意しておかなきゃいけねぇし、ちょっと上から見た方がイルカの動きが良く見えていいんだよ」
「なるほど」
「うん、つまり、オレが濡れたくないってだけだ」
「……ふっ、ははは、そうか。いや、そうだな。私もあんまり濡れるのは困るな」
何にウケたのか、由羅が声を出して笑った。
まぁ、夏だから多少はかかってもいいけど、水族館とかイルカによってはえげつないほどサービスしてくれる場合もあるから、カッパ着ててもびしょ濡れになって帰るまでに服が乾かなくて大変ってこともあるし……子どもはいいけど大人の方が困るんだよな~……
***
「あ~の!いんた~ん!キャ~!」
「うん、スゴイな~!イルカさんジャンプ上手だな!」
「ど~じゅ!ど~じゅ!」
莉玖はイルカのショーが始まると、終始大興奮だった。
オレの膝の上に立ってエアージャンプ(ジャンプしてるつもりの屈伸)をしたり、足をバタつかせたり、急に両手を上げて万歳をしたり……オレは予測不能な莉玖の頭突きやパンチを避けるのに必死で、あまりイルカのショーには集中出来なかった。
2歳前の莉玖の視力では、プールの上でジャンプするイルカの様子はほとんどぼやけているはずだ。
それでも、周囲の雰囲気や、水が跳ねる音で何かすごいことが起こっていると感じ取ったらしい。
今度イルカがジャンプしてる動画がないか探してみるか……
「あぁ……なるほど、前にいなくて正解だな」
「へ?あ~……」
由羅がイルカに水をかけられてキャーキャーと大騒ぎしている前列の人たちを見てしんみりと呟いた。
「あれはあれで楽しい思い出になるとは思うけどな。あ痛っ!」
「そうだな。まぁ……うん、莉玖がもう少し大きくなったら一度は経験させてやってもいいかもしれないな」
「お?いいね~。パパ頑張れ~」
「綾乃も一緒にな」
「オレは上から見守ってるよ」
「ずるいぞ!」
「ハハハ、ぅぐっ!」
由羅とじゃれていると、莉玖の拳がうまく顎に入って思わず呻き声をあげた。
「おい、大丈夫か?」
「だいじょばない……」
「おいで、莉玖。パパのお膝の方がよく見えるだろう」
由羅が慌ててオレから莉玖を抱き取った。
ぅ゛~~~油断大敵……
「ちょっと休んでろ」
由羅は顎を押さえて唸るオレに苦笑しつつ、オレの頭をポンポンと撫でた。
「ふぇ~い」
そこからショーが終わるまでの数分間、莉玖を由羅に任せてオレはしばしの休息をとった。
***
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