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両手いっぱいの〇〇 第222話

 オレは風呂から出ると、とりあえず帰り支度をして由羅の寝室を覗いた。 「由羅~?風呂出たけど?」 「歯磨きは?」  ヘッドボードに枕をいくつも重ねてもたれかかっていた由羅が、タブレットから顔を上げた。 「しました」 「電気と戸締り」 「え?いや、それはまだだけど……帰る時にして帰るよ」 「……まぁいいか。じゃあ、入って来い」  まぁいいかってどういうこと? 「何だよ?もう遅いし、話ならまた明日でも……」 「いいから、早く入って来い」  由羅が少しイラついた顔で手招きをしてきたので、渋々中に入った。 「で、話って何……ぅわっ!?」  ベッドに腰かけると、ぬっと由羅の手が伸びて来てベッドに押し倒された。 「おい、由羅!?何ふざけて……」 「静かに。莉玖が起きるだろう?」 「何がしたいんだよ!?」  声を抑えつつ由羅に怒鳴る。   「別に何もしない。寝かしつけたいだけだ」 「……は?」    寝かしつける? 「誰を?」  莉玖はもう寝てるけど? 「綾乃に決まっているだろう?」  いやいやいや、決まってねぇよ!?何でオレ!? 「あの、由羅?オレ今日は起きてるから帰るぞ?」 「ここで寝ろ」 「なんで?」 「昨夜具合が悪そうだったからだ。それなのに今日無理して出かけただろう?だいぶ疲れているようだし、マンションに帰ってひとりでいる時に具合が悪くなったらどうするんだ?」  えっと……もしかして昨夜オレがうたた寝してたせいで、どこか具合が悪いと思ってる? 「別に寝てれば治るって。ちょっと疲れてるだけだろうし……」 「寝て治るかどうかは医者が判断することだろう?」 「あ~まぁ、そうだけど……」 「綾乃、私が倒れた時に何て言った?」 「へ?え~と……」  由羅が倒れた時!?オレ何か言ったっけ……そんなのいちいち覚えてねぇし……   「あ~、えっと、オレがひっぱたいたやつ?」 「そうだ。その時に言った言葉をそっくりそのまま返してやる」 「え~……」  返してやると言われても、全然覚えてないから返されようがない……オレ何言ったの!? 「……もしかして、忘れたか?」 「ふぇっ!?あ、いや、まさかそんな……自分が言ったことくらい覚えてるに決まってるだろ!?」 「だよな?自分が言ったんだもんな?」  由羅の視線が痛い…… 「ぅ~~~~ごめんなさい、覚えてないですぅううう~~!!」 「一言一句違わずに聞きたいか?それとも要点をまとめたのがいいか?」 「出来ればまとめていただきたいでございまするぅ~~~……」  何を言ったのかは覚えてねぇけど、一言一句違わずって言うのは絶対に恥ずかしいやつだっ!! 「ふはっ!なんだその日本語は……じゃあ要点だけな。綾乃はあの時――……」  え~と……つまり、オレは由羅に対して「お前が倒れたらみんなが困るんだから無理をするなと言ったはずだ~!」とか「オレにもっと頼れよ!」みたいなことを言ったらしい……  要点だけまとめても恥ずかしいぃいいいいいい!!! 「というわけで、綾乃が倒れたら私も莉玖も困るし、何より私が心配だから今日もここで寝ろ。いいな?」 「ふぇぇ~~ぃ……」  数か月も経ってから自分の言葉がブーメランで返されるという羞恥プレイに耐えかねて、オレは大人しく横になると顔を手で覆った。  由羅はそんなオレを見て笑いを噛み殺しつつ、オレの腹にタオルケットをかけて、頭を撫でた。   「具合が悪くなったら、夜中だろうと我慢せずに言えよ?わかったか?」 「ん゛~~……わかった……」 「よし、おやすみ」 「……おやす……って、あ、電気と戸締り!」 「トイレに行くついでに私がみて来るから、綾乃は寝てろ」 「あ~……ふぁひぁふぉ(ありがと)……」 「あくびか喋るかどちらかにしろ」  由羅がちょっと呆れつつ部屋から出て行った。  そんなに心配しなくても……たぶん昨日は疲れてただけだし……  頭が痛かったのは気圧のせいかな……  ま、いっか。  このベッドよく眠れるし……  何だかんだでオレも莉玖と一緒に水族館で一日遊び倒したので疲れていたのか、由羅が戻って来る前にもう完全に寝落ちしていた。 ***

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