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両手いっぱいの〇〇 第223話

「お~!スゴイな~!莉玖~、海だぞ~!」 「おー!……っご~んな(すご~いな)ー!」  オレの真似をして両手を上にあげて伸びをしながら、莉玖も海に向かって大きな声で叫んだ。 「海の匂いがするな!」 「な~!」  冬に見た海は何となくうす暗くて、風も強くて、拒絶されているような雰囲気があったけど、夏の海はやっぱり“海っ!”って感じがしていいな!  照りつける太陽!  灼熱の砂浜!  賑わう霊たち(人ごみ)!    うん……心の底から帰りてぇええええええええええっっっ!!!! ***  水族館に行った翌朝、オレは珍しく不機嫌な由羅の声に起こされた。 「――だから、それは私たちがそちらに行ってからもう一度……え?いや、そういうわけでは……はぁ……わかりました。伝えておきますよっ!」 「……何か厄介事か?」  携帯の画面を壊しそうな勢いで終了ボタンを押した由羅に、そっと声をかけた。 「あぁ、すまない。起こしてしまったか」 「ん~?」  オレは目を擦りつつ時計を見た。  もうすぐ5時だ。  こんな早くに電話をかけてくるってことは……   「いや、もう起きる時間だし別にいいけど……それより仕事で何かトラブってんのか?」 「今のは姉からだ」 「え?杏里さん?」 「昨日、莉玖を海に連れて行ってやろうという話をしていただろう?」 「あ~何かしてたな、別荘がどうとか」 「あぁ、それだ。その別荘へ明日行くから用意しておけと……」 「……ん?明日……って、由羅仕事は?」 「私は仕事だから行けない。莉玖と綾乃だけ先に一緒に連れて行くつもりらしい……」  明日から杏里の旦那が夏季休暇に入るので、杏里家族と一緒に莉玖とオレも別荘に行こうと言うことらしい。 「え、オレも行くのか?でも、それだと由羅は飯とかどうすんの?」 「それは……自分でどうにかしろと言われた」  由羅がちょっと眉間にしわを寄せてため息を吐いた。 「私も数日後には夏季休暇に入る。だから、それから莉玖と綾乃を連れて別荘に行く。と言ったんだ」 「うん」 「だが、一路たちが莉玖の誕生会をすると言って張り切っているらしいんだ」 「え?あ~、別荘で誕生会をするってことか」 「そうだ。私抜きでな」 「あらら……」 「私だって、一応誕生日はちゃんと祝ってやろうと……」 「うん、そうだな」  由羅が莉玖の誕生日を祝うために、いろいろと考えていたのは知っている。  それこそ海外のバースデーパーティーのように、イベント会社に頼んでド派手なパーティーをしようかとか、店を貸し切りにしてパーティーを開こうかとか……  規模と発想がぶっ飛んでいたので、全部オレにバッサリ却下された。  だって、そもそも莉玖はまだあまり存在を知られるわけにはいかねぇんだろ!?  そんなド派手なパーティーをしたって、呼べるのは杏里の家族だけだ。  それに莉玖だってまだ小さいからそんな手の込んだことしたってわかんねぇだろうし……  そういうのは、もうちょっと大きくなって幼稚園とか小学校とか行き始めて友達を呼べるようになってからしてやればいいんじゃないかなと思う。  だいたい、誕生日パーティーは毎年あるんだから、最初からぶっ飛んだ内容にしたら後々ネタが尽きて来るだろ!?  というわけで、今年の誕生日は由羅が退院した時のようにオレが手作りで飾り付けを作るということになっていたのだが…… 「えっと、じゃあ、あの飾りは必要なかったな……」  杏里たちが考えてくれている誕生会がどんな感じなのかわからないが、オレのちゃっちい飾りは恐らく必要ないだろう。 「あの飾りは、来年に取っておこう」 「え、来年!?」 「それか、私の誕生日に飾りつけしてくれても構わないぞ?」 「由羅の誕生日?……っていつだっけ?」 「……12月だ」 「え?あ、そうなの?あれ、オレ去年お祝いしたっけ?」  12月のいつだっけ?  由羅を祝った記憶がない…… 「昨年は、ちょうど誰かさんが風邪でぶっ倒れていたので看病していたな」 「げっ!?マジで!?あ~……えっと……すみません」 「あれはあれで……ある意味いいプレゼントをもらったようなものだがな」 「へ?」 「いや、まぁ、私の誕生日はどうでもいいんだが、それよりも、今年の綾乃の誕生日も祝えていないから、莉玖の誕生日に一緒にと思っていたんだ……」 「オレの誕生日?」  そういやもうとっくに過ぎてるな~……  大人になると誕生日なんてあんまり嬉しいもんでもねぇから忘れちまうよな…… 「綾乃の誕生日は4月30日だろう?名前が5月なのに4月生まれだから絶対に忘れないぞ」 「あ~よく言われる。一回聞いたら忘れねぇって」 『え、綾乃くんって5月生まれじゃないの!?じゃあ、どうして「五月(めい)」って名前になったの?』 「オレの父親がつけてくれた名前なんだ――」  オレは5月5日が予定日だったらしく、それを知った父親が「じゃあ名前は『五月』しかないな」と言い出した。  「五月」で「さつき」と読むのはよくあるから、「五月」で「メイ」と読ませる。  父親本人は物凄くひねって考えたつもりらしい。  物凄くひねってこの名前……我が親ながら、もう少し何とかならなかったのかと……オレのセンスのなさは確実に父親譲りだと思う。  母親は別の名前を考えていたらしいが、父親が亡くなったショックで倒れて入院。  ビックリして予定よりも早く生まれて来たオレにつけたのは「五月」と書いて「メイ」という名だった。 ――「まぁねぇ。4月30日だからこの名前はどうなのかってさすがの私も一瞬悩んだわよ?でも、あんたの父親があんたに唯一残してくれたのがその名前なんだもの。つけるしかないでしょ。それに、覚えてもらいやすくていいじゃない。名前も誕生日も一度聞いたら忘れられないわよ?」  父が遺してくれた名前だと言われてしまうと、それ以上文句が言えない。  まぁ、散々からかわれたけど、オレはこの名前結構気に入っている。  センスはないと思うけど……な? ***

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