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両手いっぱいの〇〇 第224話
まぁ、そんなわけで、オレと莉玖だけ先に別荘に連れて来て貰ったわけですが……
莉玖を海に連れて来るのは別にいいんだよ?
海も山も川も、自然に触れるのは子どもの成長に必要なことだと思うし、水遊びをするなら夏の今しかない。
ただ……オレにとっては海も川も出来ることなら行きたくない場所だ。
オレは霊力が強いわけではないので、霊の方にその気がなければオレから視ることはできない。
だから、普段はそんなに気にならないのだけれども……人が多く集まる場所や水場はわりと霊も集まりやすいし、しかも夏のお盆前後の海は……自己主張が強い霊が大量に集まる。
霊に煩悩があるのかはわからねぇけど……視えないことをいいことに、好き放題やっている霊もいれば、中には厄介なのもいて、道連れにしようとするやつもいる。
今も浜辺を見渡すと、所々不穏な黒っぽい影が視えていた。
事故が起きなきゃいいけど……
オレは子どもの頃に海や川で遊ぶと必ずそいつらに目をつけられて引きずり込まれそうになり何回も溺れたことがあるので、みんなと遊びに行っても砂浜や川岸でしか遊ばなくなったし、大きくなってからは友達同士で行こうと誘われても絶対に行かないようにしていた。
『う~ん、確かに多いわねぇ~。生きてる人間と霊がごちゃごちゃしてて満員電車みたいね』
莉奈もさすがに驚いていた。
「多すぎる……オレ、この中に突っ込んで行く勇気ねぇぞ……」
そもそも、オレは海に来るつもりなかったし……杏里さんが連れて行ってあげると言っていたのも、別荘が~とか言ってたから、てっきり由羅が連れて行くのだと思っていたし……
「せめて由羅が一緒にいれば、マシだったんだけどな~……」
正月に冬の海に行った時も、まぁ、真冬だから霊自体少なかったというのもあるけれど、由羅と一緒だったので霊が近寄って来なかったおかげで、安心していられたわけで……
『あらあら、兄さんがいないとダメってことね~!』
莉奈が何を勘違いしたのか、口元を隠してニヤニヤしながら見て来た。
「うん……由羅がいねぇとダメだな……オレといると莉玖たちも危ないし……」
オレが狙われやすいので、オレに集中すればいいけれど、近くにいる莉玖や一路たちまで巻き込む可能性がないとは言えない。
『まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。だって別荘はここじゃなくて……』
「あやのちゃ~ん、おまたせ~!」
「あやのちゃんいくよ~!」
「いこ~!」
一路たちが口々にオレを呼びながら手を振った。
「お~!って、あれ?海に行くんじゃねぇのか?」
てっきり海に入るための準備をしているのだと思っていたのだが、一路たちはまた車に戻っていた。
というか、考えてみれば一路たちは家を出る時から準備万端だった。
すぐに入れるように家を出る時からもうすでに水着を着ていたのだ。
つまり、準備など必要ない。
そのまま準備体操をすればすぐに水遊びが出来る状態だ。
「別荘はまだちょっと先なのよ。ここには一路がどうしても我慢できないって言うから寄っただけよ。さぁ行きましょうか!」
どうやらここにはトイレ休憩に寄っただけだったらしい。
オレは少しホッとしながら急いで車に戻った。
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