225 / 358
両手いっぱいの〇〇 第225話
杏里の別荘は、海水浴客で賑わっていた浜辺から少し離れた小高い丘の上にあった。
木々が生い茂っていて、一瞬山の中に来たのかと勘違いしそうになったが、一路 たちに連れられて別荘の裏から続く坂道を下って木々の間を抜けると、そこには静かな浜辺が広がっていた。
なるほど、これがいわゆるプライベートビーチというやつかっ!!
よく見ると生い茂っている木は防風林で、潮風にも強い松などの樹種ばかりだった。
「すげぇな~!」
何がスゴイって、さっきのビーチにはうじゃうじゃいた人や霊が全然いない!
「きれぇでしょ~?」
双子が声を揃えて言った。
「そうだな~!キレイな海だな!」
邪魔なものがいないので、見渡す限り青い空と白い雲、青い海と白い砂浜……
波が太陽を反射してキラキラ光っていた。
入り江になっているからか、波も穏やかで砂浜もゴミもなくキレイだ。
(もっとも、それは杏里の別荘の管理人が掃除をしておいてくれたからかもしれないが……)
ともかく、ここなら、オレにちょっかいを出して来る霊 はいなさそうだし、子どもたちも安心して遊べそうだな。
『だから言ったでしょう?大丈夫よって』
「え?何か言ったっけ?」
『ひど~い!私の話し聞いてなかったの!?』
ごめん、正直聞いてなかったです……
だって、さっきはあまりにも人混みが凄くて……
莉奈が頬を膨らませてぽかぽかとオレの頭を叩いて来た。
が、実体がない莉奈が叩けるわけではないので、全部オレの頭をすり抜けていく。
どういう状態なのか自分ではわからないねぇけど、恐らく莉奈の拳がオレの頭にめり込んでるんだろうな~……
もし視える人が見ていたら絶対にシュールだろうと思いつつ、オレはサチコさんと一緒にパラソルを立てた。
「今は日陰になってるので少し涼しいですが、もう少しすれば太陽が上に昇って暑くなってきますよ。水分補給はしっかりしてくださいね?」
「そうっすね。めちゃくちゃ晴れてるから……適度に休憩と水分補給していかないと熱中症になっちゃいそうですよね」
二人で空を見上げていると、サチコがパンと手を打った。
「あぁ、そうだ。綾乃様にお任せしておけば大丈夫だとは思いますが、お坊ちゃまたちはあちらの岩場にできる潮溜まりなどでもよく遊ばれます」
サチコはそう言いながら、少し離れた入江の端の方を指差した。
「手前の方は岩も平坦で窪みも小さいので安心なのですが……お坊ちゃまたちがあの奥に行こうとしたら止めて下さいね」
「奥にも何かあるんですか?」
「あの更に奥の方に行くと、ちょっとした洞窟があるんですよ。でも、奥の方はお坊ちゃまたちの足では窪みに足を取られてまだ危険なので絶対に近付かせないように気を付けてくださいませ」
「洞窟……」
いかにも子どもの好きそうな……
「はい、わかりました。でも、一路たちも洞窟があるって知ってるんですか?」
一路は慎重派だし、下の子たちが自分の真似をして着いてきたがるのをわかっているから、洞窟があることを知らなければ勝手にそんなに遠くまで行くようなことはしないはずだ。
「お坊ちゃまたちにはまだ教えるつもりはなかったのですが、昨年たまたま旦那様方が話しているのを聞いてしまったようで……」
どうやら酔っ払った父親が、子どもの頃その洞窟で遊んだという話を杏里にしているのを、トイレに起きた一路がこっそり聞いてしまったらしく、杏里たちの目を盗んで勝手に一路と朱羽が洞窟に行こうとして窪みに足が嵌ってしまって動けなくなり大騒ぎになったのだとか。
「まぁ、杏里様も一路お坊ちゃまたちにしっかりと言い聞かせておられましたし、昨年のように勝手な行動はとらないと思いますけれどね……さてと、莉玖ちゃまがいるのでおひとりでは大変でしょうから、入れ替わりに誰か寄越 しますね」
「お願いします!」
サチコはお手伝いさんたちのまとめ役なので、別荘でもいろいろと仕切らなければいけないらしく、多忙だ。
だから、別のお手伝いさんと交替するということらしい。
今の話しを聞いた後では、さすがに莉玖を抱えた状態で一路たちを止めるのは難しそうだから人手が増えるのは助かる。
「こちらにお飲み物置いておきますね」
サチコはパラソルの横に大きなクーラーボックスを二個置いて行った。
洞窟……か……
冒険心をくすぐられるワードの一つだ。
オレもちょっと行ってみたいかも……
あの洞窟があるっていう周辺、なんか惹かれるんだよな~……
***
ともだちにシェアしよう!