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両手いっぱいの〇〇 第226話

 サチコが別荘に戻るのと入れ替わりに、真鍋家の古株庭師の源九郎(げんくろう)こと(げん)さんが来てくれた。   「お待たせしました!さぁ、遊びましょうか!」  源さんは真鍋家の数少ない男手で、庭だけでなく力仕事を一手に引き受けてくれているとっても頼りになる人だ。  普段は仕事が忙しくてなかなか子どもたちと遊べない父親に代わって源さんが子どもたちの相手をしているらしく、子どもたちもよく懐いている。   「げんさんだ~!げんさんボールあそびしよ~!」 「はいはい」  一路(いちろ)たちが源さんとビーチボールで遊び始めたので、オレは莉玖と双子の歌音(かのん)詩音(しおん)と一緒に砂遊びを始めた。 「莉玖~!ほら、このお砂触ってみな?」  波が寄せてくるのが怖いらしく、なかなか近寄ってこようとしない莉玖の手を引いて一緒に波打ち際に立つ。  少し砂に埋まった足に、波がチャポンと寄せて来た。 「ぴぇっ!?」  波が足に打ち寄せた瞬間、莉玖の身体が下から上へと順にブルブルっと震えたように感じた。 「大丈夫だ。綾乃がついてるからな」  波が引くのと同時に砂が持っていかれる感覚に、莉玖が 「ほわぁああ~~~!!」  と何とも言えない声をあげた。 「……?あ~の……っ!」  莉玖が自分の足をじーっと見て、不思議そうな顔で足を指差しながらオレを見つめて来た。   「どした?足も連れていかれたと思ったか?面白い感覚だろ~?」 「ったぃ!ったぃ!」 「もう一回?いいぞ~、このままここに立ってたらそのうちに波が……ほら、来た!」 「おお!?……ほわぁあああ~~~~!!」  砂だけ持っていかれる感覚が気に入ったらしく、莉玖はしばらくそうやって遊んでいた。 *** 「あやのちゃん、こっちきて~!」 「ほら、おやまちゅくった~!とんねるちゅくって~!?」  オレが莉玖と遊んでいる間に、双子が砂で大きな山を作っていた。  歌音と詩音は背格好や顔はそっくりなので、黙っていると正直オレも見分けがつかないくらいだが、詩音の方はまだ少し滑舌が悪く『た行』や『さ行』が『ちゃ』『しゃ』となることがある。   「お~!すげぇな!でっかい山が出来たなぁ~!」 「すごいでしょ~!」 「しゅごいでしょ~!」 「うんうん」 「とんねるして~!」 「トンネルか~……うまくできるかなぁ~……壊しちゃったらごめんな~?」 「え~!?こわすのダメよ~!」 「いや、壊すつもりはねぇけど、トンネル難しいんだよ~……よいしょっと……」  二人が一生懸命作った山なので、なるべく壊さないように慎重に穴を掘っていく。  その横で莉玖が真似をして穴を掘ろうとするので、双子が必死に莉玖の気を逸らそうとしていた。 「りくちゃん、ここにおてておいて!?おすなかけてあげる!」 「やっ!あ~の!」 「うん、ごめん。綾乃は今必死だから、ちょっとお姉ちゃんたちとお砂遊びしててくれ~」 「あい!」  良いお返事をしながら、莉玖はまたオレの真似をして別方向から穴を空けようとしてくる。  う~ん、そっちからこられると途中で崩れちまうんだよな~……  せめて向かい側からなら…… 「莉玖~、そっち側から掘ってくれないか?そこからだと山が崩れちゃうから……」 「りくちゃんはだめぇ~!こっちよぉ~!」 「じゃあ、詩音、そっちから頼む!」 「こっち?」 「そうそう。ちょっとずつ穴掘ってみてくれ。真ん中でオレの手と握手出来たら成功だ」  歌音が莉玖を引きはがしたので、オレは詩音に反対側から掘るように頼んだ。 「う~ん、どこどこ~?あ、なんかあった!」 「あ、これかな?つ~かま~えたっ!」 「きゃははは!」  何とか詩音の手と握手をすることが出来たのでトンネルは成功だ。  ホッとしながらオレが退くと、歌音と詩音が手を突っ込んで握手をして笑っていた。 「莉玖もやってみるか~?って、あれ?莉玖?」 「ムゥ~~!」  オレが振り返ると、莉玖が頬を膨らませて腕を組んでいた。  一緒に穴掘りがしたかったのに歌音に止められたのでご立腹らしい。 「ごめんごめん、じゃあ莉玖、こっちで一緒に山作るか!」  オレがポンポンと砂を叩くと、莉玖も砂を叩いた。 「ここは砂が湿ってるだろ~?さっき波が来たからな」 「お~?」  オレと莉玖が砂の上に手を置いていると、双子が「いまだっ!」とばかりに、オレと莉玖の手をせっせと埋め始めた。 「おいおい、歌音~詩音~、ちょっと山でっかすぎないか~?」 「でっかーい!」 「やまぁ~!」 「ん゛~~~!」  双子がどんどん砂をかけて固めていくので、莉玖が手を動かしてもびくともしなくなった。  そこに少し大きな波が来て、山に波がかかった。 「ぅぎゃ~~!!」 「莉玖、お顔にかかったか?大丈夫か~?」 「あ~~~の~~~!やああああのおおおお!!」  顔に波しぶきが跳ねて莉玖が大号泣してしまったので、双子が慌てて砂を退けた。 「りくちゃん、だいじょぶよ~!」 「ほらほら、おててでてきたね~!おててあるよ~!ね?」  双子は莉玖が自分の手が見えなくなったので、手がなくなったと思って泣いていると勘違いしているらしい。  まぁ、それもあるかもしれないけどな。 「てってぇ~~!てってぇ~~!!」 「おててあるよ~!だいじょぶよ~!」  双子が莉玖の手をポンポンと包み込んで撫でたので、莉玖も波しぶきにびっくりして泣いたことを忘れて、双子と一緒に手があることを喜んでいた。 「あ~~のぉ~~!てってぇ~!」 「あ~うん、手があって良かったなぁ~――」  オレはその様子を動画に収めつつ、莉玖の人生初!砂浜体験の反応に地味に感動していた。  面白いな~。これ由羅と一緒に見たかったな~……  一応動画は撮ったけど、全部は撮れてないし……  あ~くそぉ~!もっと前から撮っておけばよかったぁ~~!  ごめん、由羅ぁ~……  オレはひとり寂しくお留守番をしている由羅に心の中で手を合わせた。(もっとも、今は仕事中だろうけどな) ***

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