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両手いっぱいの〇〇 第227話

――……ってことがあってさ~」    オレは画面の向こうの由羅に向かって、初めての海を堪能する莉玖がどれだけ可愛かったか話していた。  その莉玖は今、一路たちと一緒にお昼寝中だ。 「ほぅ……で、その動画は?」  オレが作り置きしておいた常備菜を詰め込んだ弁当を食べながら、由羅が画面に向かって手を出して来た。 「へ?」 「だから、その莉玖の様子を収めた動画だ。撮ってくれたんだろう?」  動画を送れということらしい。  まぁそうなりますよね~。  でも…… 「あ~……そうそう。動画ね?うん、それがさ、オレ絶対ちゃんと録画ボタン押したはずなのに撮れてなかったんだよな~……」 「撮れてない?」 「後で見たら、なんか……撮れてなかった……慌ててたからボタン押し間違えたのかなぁ……(わり)ぃな!」  オレは由羅に手を合わせて頭を下げた。 「まぁ、それなら仕方ないか……」 「ほんとごめん!」 ***  嘘だ。  本当はしっかりと撮れていた。  しっかりと撮れ過ぎていた。  余分なものまで一緒に……  莉玖はとっても可愛く撮れていたのだが、莉玖たちの後ろの方に、サチコが言っていた洞窟へと続く岩場もチラッと見えていた。  オレが撮った写真や動画には、その岩場が全体的に黒く靄がかかったようになっていたのだ。  ハッキリと人の顔が見えるとかじゃないけど、これもいわゆる心霊写真みたいなものだ。  オレだけに見えているのか、他の人にも見えるのかはわからない。  わからない以上、不用意に見せるわけにはいかない。  だって、プライベートビーチの一角にそんなのが映ってたら気味が悪いだろ?  一応莉奈にも見えていたけど、あいつは霊だしな~……  そもそも、裸眼ではそんなものは視えていないのが余計に気になる。   『ん~、確かになんか嫌な感じはしてたけど、そんなに黒い靄みたいなのは私も普通の状態じゃ見えないのよね~』 「莉奈もか?じゃあ、あんまり強いやつじゃねぇのかな……」 『どうかしら……でも黒い靄になってるのって、こう、いくつもの怨念みたいなものが合体して出来てるのが多いじゃない?黒い靄になってる時点でそれなりに強い気がするけどな~……』 「不吉なこと言うなよぉ~……」 『ごめんなさい。でも、あのあたりは近づかない方が良さそうね』 「だな……」  サチコから洞窟の話しを聞いた時、やけに洞窟が気になったのはもしかしたらこの黒い靄に惹かれたのかもしれない。  自分でも気づかないうちに霊に呼ばれることはよくある。  ただ、由羅と一緒にいるようになってからそういうことがなくなっていたので油断した。  ダメダメ!しっかりしねぇと!莉玖や子どもたちがいるんだから、オレがそんなやつらに惹かれてる場合じゃねぇよ!    *** 「由羅はいつこっちに来るんだ?」 「このまま何もトラブルが起きなければ、明々後日にはそちらに行けると思う」 「明々後日か……」  あの黒い靄を視てからなんだか落ち着かない。  裸眼じゃ視えないから出来れば由羅に早く来て欲しい……  莉玖にも御守りは持たせてるけど、海で遊んでる時は身につけられないし……オレはどうにかなるけど、莉玖たちのために……でも仕方ねぇよな……  ある意味こうやって先に気付けたから良かったじゃないか!  近付いてから気付いても、あんな足場の不安定なところじゃすぐに逃げられないし……  祓う力が弱いオレじゃどうにもできないし……  うん、あの洞窟の辺りには絶対近付かないようにしよう……!!近付かなければ大丈夫なはず!! 「どうした?」 「ううん、何でもない!トラブル起きなきゃいいなって……」 「そうだな。……明日は莉玖の誕生会をしてくれるのだろう?」 「あ、うん!何か一路たちが飾りつけ頑張ってくれてる。今は疲れてみんな寝てるけどな」 「そうか。誕生会の様子はちゃんと撮っておいてくれよ?」 「それは杏里さんがやってくれるから大丈夫!!……だと思う!」 「姉も結構抜けているところがあるからなぁ……一応確認はしておいてくれ」 「わかった」 「それじゃあ、また連絡する。ごちそうさまでした」 「はいよ~!」  由羅が空になったお弁当箱を見せながら通話を切ったので、思わず苦笑した。 「ちょっとちょっと!響一ってば、お弁当作れたの?」  杏里が驚いた顔をしながら、暗くなった画面を指差した。  少し離れたところからこっそり覗いていたらしい。 「あ、杏里さん。はい、ご飯は自分で炊いたみたいです。後はオレが作り置きしておいた常備菜を適当に詰めたみたいで……」 「響一にしては上出来じゃないの。やればできるのねぇ」 「ははは、そうですね」  冷凍食品を詰めるのと大して変わらねぇけど、その詰めるだけの作業も結構大変だ。  昼飯を食べる時にテレビ電話をするのは、胃潰瘍になってからずっと続いている。  映像が映るので、ちゃんと食べていないとオレにバレる。  だから、わざわざ朝早くご飯を炊いて、頑張ってお弁当を作ったのだと思う。  由羅がチマチマお弁当を詰めているところを想像するとちょっと笑えるが、そのうちに莉玖にも作ってやる時が来るかもしれねぇし……そう考えるとなんだか微笑ましい。  テレビ電話も結構役に立つな~!  オレは杏里と顔を見合わせてクスクス笑い合った後、明日の誕生会の打ち合わせを始めた。 ***

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