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両手いっぱいの〇〇 第228話
その日の夜、莉玖が熱を出した。
「初めての海水浴だったから、疲れたのかもしれないわね」
「すみません……ちょっと長く遊ばせ過ぎちゃったかなぁ……」
昼になると一気に気温が上がって来るので、莉玖と双子たちは昼前には別荘に連れて帰って来ていた。
だから、何だかんだで砂浜で遊んでいたのは休憩込みで1時間未満だったと思うんだけど……
「直射日光には当たってなくても、潮風には当たるでしょう?潮風って慣れてないと結構疲れやすいのよね。それに初めてのことばかりで楽しくてはしゃぐから、余計に疲れちゃうんでしょうね。うちの子たちも初めて海水浴した時は軽く熱が出たわ」
「あ~……潮風か~……」
今日はそんなに風が強い方ではなかったけれど、それでもやっぱり多少の潮風は吹いていた。
「オレ、海水浴はホントに子どもの頃に行ったっきりで……そうか、潮風って疲れるんですね~……」
オレも子どもの頃は、海や川に行くと必ず熱を出していた。
オレの場合は変なの に捕まらないように逃げることに必死だったせいだけど……
「病院行かなくても大丈夫ですかね?」
「まだそんなに熱が高いわけじゃないし、食欲もあったし……とりあえず身体を冷やして様子を見てみましょう。熱が上がって来るようなら連れて行きましょうか」
「はい」
***
「ごめんな~、莉玖。せっかく楽しかったのにな~……」
オレは莉玖のおでこに冷却シートを貼って頭を撫でながら小声で謝った。
『そんなに気にしなくても大丈夫よ。姉さんも言ってたでしょ?初めての海で興奮し過ぎて疲れちゃっただけよ』
「でも、オレがあの黒い靄 に気を取られてたせいだ……」
写真に写っていた黒い靄が何なのか、そればかりに気を取られて、莉玖たちを連れて帰るのが少し遅くなったせいだ……
『だ~か~ら~、ちょっと熱が出ただけだから大丈夫よ!綾乃くんは気にし過ぎ!そうだ!私今のうちにあの洞窟ちょっと見て来る!』
「ぉ~……って、はあっ!?……おぶっ!」
思わず大きな声を出しそうになって、慌てて口を押さえた。
別荘には客室がいっぱいあるので、この部屋にはオレと莉玖だけだ。
でも、だからこそ、オレが誰かと話している声が漏れるのはマズイ。
莉玖は寝ているのだから、オレが独り言を言っていることになる。
さすがにどの部屋も防音性は高いみたいだし、筒抜けってわけではないはずだけど……
「ちょ、莉奈!何言ってんだ!?止めとけって!」
声を抑えつつ、必死に莉奈を止める。
『だぁ~いじょうぶよ~。チラッと見て来るだけだから。あの黒い靄の正体がわかれば、綾乃くんも少しは安心できるでしょう?』
「いや、でも安心できねぇやつだったら!?っつーか、莉奈もあれはヤバい気がするっつってたじゃねぇか!」
『だから、あれがあそこから動かないタイプか、移動するタイプか見て来ないと!ここまで来られるようならその前にどうにかしないとでしょ?』
「どうにかって……莉奈さん、どうにかできんの!?」
『さあ?やってみなきゃわからないじゃないの。とりあえず行って来るから莉玖のこと頼んだわよ~!』
「ちょ、待てって!莉奈っ!!」
莉奈はオレの制止も聞かずに姿を消した。
チラッと見て来るだけって言ってたけど、どういう相手かわかんねぇのに……
一応莉奈は莉玖との距離があまり離れていなければ一瞬で莉玖のところまで移動できると言っていた。
だから、もし何かあったとしてもすぐに逃げて来られるとは思うけど……
そもそも莉奈はああいうやつらを相手したことあんのか!?
さっきの感じだと絶対ないだろ!!
あ~もう!!あんなとこに近付いて変なやつらに巻き込まれたらどうすんだよぉおおお!!
心配の種が増えてしまったオレは、頭を抱えてベッドに倒れこんだ。
ちょうどそこに由羅から電話がかかってきた。
いやああああああああああ!!!
更に頭の痛い案件がぁああああああ!!
って、これは絶対逃げちゃダメだけど……!
莉玖の熱のこと、報告しなきゃだ……
オレはベッドの上に正座をして深呼吸をすると、映像と通話のボタンを押した。
「綾乃?何をして……」
「まことに申し訳ございませんっ!!」
由羅の言葉を遮って、オレはひとまず由羅に頭を下げた。
***
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