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両手いっぱいの〇〇 第229話
「綾乃、何があったんだ?」
頭を下げるオレを見て、由羅は軽くため息を吐いた。
「まず何があったのか話してくれ。いきなり頭を下げられても困る」
ごもっともです……
「あ~、えっと……莉玖、ちょっと熱が出ちゃって……」
「熱?高いのか?」
「いや、微熱だけど……杏里さんは、たぶん初めての海水浴だから疲れたんだろうって……」
「あぁ……確かに海は疲れるな……」
杏里に言われたことを話すと、由羅は軽く頷いた。
「ごめん……オレが海で長く遊ばせ過ぎちゃったせいだと思う……」
「そんなに長くいたわけじゃないだろう?姉が言ったように初めての海で莉玖もだいぶはしゃいでいたようだから疲れただけだろう」
「ぅん……」
「綾乃、莉玖が熱を出すのはこれが初めてじゃないだろう?莉玖が体調を崩す度にいちいち落ち込むな」
「……すみません」
少しイラついた由羅の声に、オレはもう一度頭を下げた。
いちいち落ち込むなっつっても……
「あ~……いや、すまない。今のは私の言い方が悪かった……熱も高くなさそうだし、そんなに気にしなくてもいいと言いたかったんだ」
「うん……子どもが熱出すのは良くあるし、テンションが上がって熱出すのもわかってる。ただ……明日は莉玖の誕生日だから……せっかくの誕生日なのに体調万全で楽しめないのは申し訳なくて……」
莉玖にしてみれば人生で二回目の誕生日だ。
一回目は何が何だかわからないまま迎え、何となく楽しい日と認識出来るようになってくる二回目の誕生日。
一路たちも頑張って飾りつけをしてくれているし、杏里さんたちもいろいろと子どもたちが喜びそうな料理を考えてくれている。
それなのに、主役が体調不良でぐずっていたらみんなが楽しめない……
「ああ……なんだ、そのことか……」
「なんだってなんだよ!?大人になったら誕生日なんてどうでもいいけど、子どもにとっては誕生日は一大イベントで……」
「わかったわかった、ちょっと落ち着け!私は、どうでもいいと思っているわけじゃない。でももし明日になっても具合が悪いようなら少し延期してくれれば私も参加できるなと思って……」
「へ?」
「だから私としては延期になってくれた方が……いや、莉玖が熱を出して良かったと言っているわけじゃないぞ!?そうじゃなくて……その……」
「……でも由羅が来れるのは明々後日だろう?」
「あぁ……そうだな……さすがにそこまで延期するのは無理だな」
由羅が気まずそうに頬を掻いた。
「……帰ったらもう一回誕生会するか?」
「いや、誕生会は来年もあるんだし、別にいい……」
「わかった」
帰ったら改めて誕生会をしよう。
由羅が莉玖の誕生祝いをちゃんとしてやろうと頑張っていたのは知ってるけど、そんなに一緒に祝いたかったとは……ちょっと予想外だ。
でもそうだよな。由羅にしても、莉玖と家族になって初めての誕生会なんだし、ちゃんとしてやりたいよな!
うん、まぁ、オレに出来るのはちょっとごちそう作って簡単なケーキを作るくらいだけど……やっぱり由羅も一緒に祝って……
――――ッ!!
突然、頭の中に莉奈の叫び声が聞こえた気がした。
「っ!?」
思わず周囲を見回すが、莉奈らしき姿はみえない。
気のせいか?風の音を聞き間違えたのかな……
ふと窓を見ると、窓の外を何かが横切ったような気がした。
「あれ?」
「どうした?」
「あ、いや……何か今……誰か外にいたような……」
窓を開けて外を覗いてみた。
オレと莉玖の部屋は二階だ。
だから普通なら、窓の外を誰かが横切ると言うのはありえない。
なのに、不思議とそれがおかしいと思わなかった。
「あれ?一路?」
小さい子どものような影が海に向かって走っていくのが見えた。
黒い影しか見えなかったのに、どうしてそれを一路だと思ったのかもわからない。
ただ……
「綾乃?おい、どうしたんだ!?」
「オレ……行かなきゃ……」
「行くってどこへだ?」
「呼んでる……」
「綾乃!?おい、しっかりしろっ!!綾――」
オレは由羅の声を無視して通話を切ると、杏里に、落とし物を探しに行くからしばらく莉玖を見ていてくれと頼んで別荘を出た。
頭のどこかで「行くな!」と危険信号が出ていた。
こんな夜中に一路がいるはずがない。
そもそも、一路は杏里の部屋にいたはずだから、いなくなっていれば杏里が大騒ぎをしているはずだ。
あれはオレを呼びに来たんだ……わかってる、あれはヤバいやつだ……
でも、行かなきゃ……
たぶん、莉奈が危ないっ!!
***
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