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両手いっぱいの〇〇 第232話

 今すぐ出れば何とか戻れそうだけど、この子猫たちをどうすりゃいいんだ?   「おい、莉奈!母猫に今までどうしてたのか聞いてくれ!」 『え?あ~、えっと……こっちのもっと高いところ?うん、それで?……子猫ちゃんが?……うん、そう……頑張ったわね。ねぇ、ここまでは水こないの?……え!?大変じゃないの!!……ですって。どうしよう綾乃くん!!』 「いや、だからオレは何も聞こえてねぇんですけど!?何がどう大変なんだよ!?」 『あ、そか。えっと、だから、このもっと高いところ……ここら辺かな?で出産したんですって。最初は子猫もあんまり動かなかったから大丈夫だったけど、少し目が見えるようになってくるとバラバラに動き出して、で、気がついたらここまで下りて来ちゃってたみたい。でね?子猫の1匹が波にさらわれちゃって、それを助けるために無理して海に入って……何とか子猫は上に持ち上げたけど、結局……』  子猫を岩の上に持ち上げるのに体力を使い果たした母猫はそのまま波にさらわれて海に沈んだらしい。   「そっか……それで、ここまでは満潮でも海水はこねえのか?」  母猫が出産したという岩を指差す。  母猫の愛にしんみりしたいところだが、今はそんな余裕がない。 『それがね、ちょっと大きな波が来たらギリギリのところまで来てたみたい。そこにいた時でも母猫が子猫たちを庇ってたみたいね』 「ダメじゃねぇか……」  助けを呼んで来るか潮がひくまで何とか安全に待っていられる場所がなければ、置いていけない。   「う~ん、とりあえずここに乗せるしかねぇか」  そうこうしているうちにどんどん潮は満ちて来る。  オレはひとまず母猫が出産したという岩の窪みへと子猫たちを持ち上げることにした。 「ほら、こっちおいで。こいつと……あ、こら、逃げるな!待て待て、ここにいろって!……あ、ダメだって、ちゃんとここで待ってろ!……あと1匹は~……いた!よしよし、お前もここに……ってあれ?なんで2匹?あ、お前どこに行こうとしてんだ!……あ~もう!莉奈ぁ~!ちょっと子猫たちにちゃんとここにいるように言い聞かせてくれって母ちゃんに頼んでくれよ~~!!」  捕まえては乗せ捕まえては乗せ……いくら乗せても他の子猫を探している間に先に乗せた子猫がフラフラと逃げ出して岩から転げていく。  じっとしてねぇのは人間の子と一緒だなぁ~…… 『あ~、それが……この()が言い聞かせても全然聞いてくれないんですって。声が届かないわけじゃないみたいだけど、海に落ちないように見守るのが精いっぱいなんですって』 「そんなぁ~……」 『だから綾乃くんを連れて来たんだって怒ってるわよ?』 「逆ギレすんなよ!?事情も知らずにつれて来られたこっちの身にもなってくれよ!しかもオレまで戻れなくなりそうだ……し……って、え、待って、マジでオレ戻れないんじゃねぇの?」  子猫と格闘している間に、気が付けばもうオレの足首まで海水が上がって来ていた。  ちょっと小高くなっているここで足首ということは……?  自分が歩いて来た道を恐る恐る振り返ると、もう完全に海の中に沈んでいた……  あ、オレ……オワタ……! ***

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