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両手いっぱいの〇〇 第233話

「う~ん、参ったなぁ……」  出来る限り高い位置を目指して捻挫した足首を庇いつつ岩に上ったオレは、辛うじて自分の足が置けるくらいの不安定な足場に、無事な方の足に体重をかけた状態で立って壁にもたれかかっていた。 『どどどどうしよう!?私、誰か助けを呼びに……って、誰も私の声聞こえないんだったぁああ!!あ~もう!せめて子供たちだけでも私の声が聞こえてくれればいいのにぃいい!!』  莉奈はさっきから母猫と一緒にふよふよ浮きながらオレの目の前を行ったり来たりしている。   「まぁ、落ち着けって莉奈」 『なんで綾乃くんはそんなに落ち着いてるのよおおおおおおお!?心配じゃないの!?怖くないの!?だって、このままじゃ綾乃くんも……』 「いや、そりゃ怖いし心配だけどさぁ、慌てた所でもうどうにもなんねぇし」  満潮を止められるわけでもないし、時間を巻き戻せるわけでもない。 『……そうだけど……』 「大丈夫だよ。ずっと満潮になってるわけじゃないんだ。時間とともに潮はひいていくだろ?ひとまず岩の上(ここ)にいれば、波を被ることはあってもこの岩まで海の中に沈むことはないみたいだし……とりあえず子猫らを落とさねぇようにすれば何とかなるだろ。だから、お前ら頼むから大人しくしててくれよな!?」  オレは暴れている4匹の頭を順に撫でながら頼み込んだ。 「ミィミィ!」 「うんうん、頼むからジッとしててくれよ~」 「ミィ~!」 「寝てくれてもいいんだぞ~?むしろその方が抱っこしやすいから」 「ミィミィ!」 「寝ないのか~?だってさ~お前ら赤ちゃんなんだから寝るのが仕事だろ~?あ、こら、仲良くしろって!ケンカすんなっ!痛っ!爪を立てるなって!」  冬なら基本的にお腹にでっかいポケットがあるパーカーを着ているが、今は夏だ。  しかも、もう寝ようとしていたので、パジャマ代わりのTシャツと夏用のジャージ姿だ。  せめて上着を着てくれば良かった。  そうすりゃ、こいつらを包んでおけたのに……  一応海に来るということで、夏用のUVパーカーは持ってきていたのだが、慌てて出て来たので置いて来てしまった。  仕方が無いので、岩に上るためにTシャツの裾を持ち上げて袋状にしてそこに子猫たちを放り込んだ。  子猫たちも居心地が悪いのだと思うが、他に入れ物もないし、もう足場に子猫を置いておけるスペースはないので、これで我慢してもらうしかない。  母猫も、一生懸命子猫たちに何やら言い聞かせてくれている様子だった。  子猫たちはあんまり聞いてなさそうだけど……  それにしても……大丈夫だとは言ったものの、潮ってどれくらいで引くんだろう……  たしか満潮、干潮って、1日に2回ずつあるんだっけ?  ……あ、そういや……どこかに干潮の時だけ現れる道があるとか……子どもに聞かれて調べたことがあったなぁ……え~と、その道が見えるのが干潮時間の前後……3時間ずつくらいじゃなかったっけ?  つまり約6時間……え?待てよ?ってことは、満潮もそれくらい続くってことか?  あ、そうか……単純計算でもそうなるか……まぁでも、徐々に引いていくだろうから、実際は6時間も待たなくてもいい……よな? 「あっ!!そうだ!ちょっと莉奈、莉玖の様子見て来てくれねぇか?」 『え?』 「オレ、ほとんど説明もせずに杏里さんに莉玖を渡してきたから、もしかしたら杏里さんたちも心配して探しに出てくれてるかもしれねぇ」 『わかった!』 「あと、お前も一緒に行ってくれ。もしかすると、オレ以外にも波長が合って触れたり声が届くやつがいるかもしれねぇだろ?」  オレは母猫にも声をかけた。 『なるほど!それはあるかもしれないわね!』 「もし声が届いたら、オレは大丈夫だから心配しないでくれって伝えておいてくれ!」 『わかっ……って違うでしょ!!ここにいるから助けてくれって言わなきゃ!!』 「え?いや、でもこんなところ助けにくるの大変だろ?ゴムボートみたいなのでもない限りここに入ってこれねぇだろうし。別にオレは大丈夫だ。でもオレがいないとみんな心配しちゃうだろうから無事だって知らせてくれれば……」 『何バカなこと言ってるのよ!全然無事じゃないでしょう!?いいわ、こうなったら、どうにかして助けを呼んでくるわ!っていうか、あ~もう!こんな大変な時に兄さんは一体何をやってるのよ!』 「いや、そりゃ寝てるだろ……もう遅いし」  それに由羅がいたとしても、由羅にも莉奈の声は届かないので意味はないのだが…… 『そうね!!わかってるわよ!!兄さんは家にいるんですものね……まぁいいわ。兄さんのことは置いといて……それじゃ猫ちゃん行くわよ!?……ん?……あら、そうなの?ねぇ綾乃くん、この()が言うには、ここから離れたら綾乃くんは周りが見えない状態に戻っちゃうかもしれないって……』  今オレが回りが見えているのは、この母猫の霊力というか妖力というか、そんな感じのものらしいので、母猫が傍を離れると効き目が切れるらしい。 「え?あぁ、真っ暗になるってことか……う~ん……仕方がない、オレはどうせここから動けねぇし、いいよ。じっとしてれば大丈夫だろ」 『わかった、それじゃあ、ちょっと見て来るわね!』 「頼んだ!」  莉奈と母猫が姿を消すと同時に、オレの目の前も真っ暗になった―― ***

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