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両手いっぱいの〇〇 第234話

「お~……真っ暗ぁ~……お前らは暗くても見えるんだっけ?さすがにこの暗さだと、お前らでも見えねぇかな?……ぁっぶね!」  莉奈と母猫がいなくなった途端、それまでぼんやりと見えていた洞窟内の様子が一瞬にして見えなくなった。  想像していた以上の暗さに、自分が目を開けているのか閉じているのかもわからない。  上下左右の感覚もない。  ちゃんと岩の上に足が乗っているはずなのに謎の浮遊感に襲われて、思わず膝がガクッと崩れそうになる。  背中に感じるゴツゴツとした岩の感覚と、胸元を引っ掻いてくる元気な4つの命が今のオレの全てだった。 「ミィミィ!」 「もうちょっと目が慣れてくればマシになるかなぁ……」 「ミャ~!」 「ん~?……うん、ごめんな、早くお前らを連れてここから出ていたら良かったんだよな、オレがグズグズしてたせいだ」  詳しい話を聞くのは、安全な砂浜に戻ってからでも良かったはずだ。  でも、こんな時間に呼び出されて、悪霊かと思ったら猫で……ちょっと動揺していたせいで判断が鈍った。  由羅、怒るだろうな~……  由羅の代わりに莉玖をしっかりみてるって約束したのに、オレこんなところにいるし……  莉玖……熱下がったかなぁ……  誕生会までには戻らなきゃ……  杏里さんたちにも……たぶん心配かけてる……よな~……  探しに出てくれてたらホント申し訳ないな…… 「ミィ~~!」 「なんだ?腹減ったのか?そうだよな~……母ちゃんがいなくなってからもう一日か?ミルク飲んでねぇもんな……」  潮が引くまでこいつらの体力がもつかな……  今のところ元気に鳴いているので大丈夫だとは思うが……1匹だけ他の子猫に比べるとちょっと元気がなさそうなのが気になる。  もしかしたら、こいつが海に落ちたっていう子猫かもしれねぇな……   「頑張れ……母ちゃんの分もお前らは生きろよ」  真っ暗な中、手探りで子猫たちの様子を確かめていく。  そうこうしているうちに、海面に薄ぼんやりとした人影が次々に浮かび上がって来た。   「チッ……やっぱり来たか……」  昼間は人が多い場所に集中していたみたいだが、夜になって人がいなくなったのでこっちにまでやってきたらしい。  さっきまでいなかったのは、たぶん母猫のおかげだ。  子猫を守るためとは言え、母猫の想いはかなり強かった。  写真に入り込んでいた黒い靄はひとつ間違えれば悪霊になりかねない……っつーか、たぶん本当はあの母猫はだ。  子猫を助けてくれるかもしれないと思ったからオレには手を出してこないだけで、子猫に危害を加えるようなやつだと判断されていたら今頃海に引きずり込まれていたと思う。  だいたいオレに多少霊力(ちから)があって波長が合ったからって、それだけでこの暗闇の中で見えるようになったり、手を掴んだり……そんなこと出来るわけがない。  猫は昔から長生きをすれば猫又という妖怪になるという話があるくらいだし、もともとあの母猫にそういう特別な力があったのかもしれない。 「やっぱり母ちゃんには……すぐ帰って来てって言って置けばよかったかなぁ~……」  由羅と離れているせいで守護霊の力が弱まってきているし、御守りは念のため莉玖にオレの分も持たせている。  つまり、今のオレは完全に無防備だ。  う~ん……御守り持ってない状態でこいつらどうにか出来っかなぁ……   「ミャ~オ!」 「ミィミィ」 「わかってるよ。お前らは何とか守ってやる。っつっても……この数はちょっと多いかなぁ……」  話しの通じる(やつ)がいればいいけど……そんな(やつ)いないよなぁ~……  莉奈はオレに霊力(ちから)があるって言うけど、それは御守りのおかげであって……オレだけだと大して霊を退けるような霊力なんてない……  あ~もう……莉奈じゃねぇけど、ほんとに……なんでここに由羅がいねぇんだよぉ~~!! 「こらっ!触んじゃねぇよ!!シッシッ!!」  足首を掴もうとする手を足で振り払う。 「おっと……あぶねっ……!痛っ……」  ずっと片足に体重をかけていたので、足を振った時にバランスを崩しかけた。  慌てて捻挫した方の足を着地して何とかバランスを取ったが、着地点が悪かったのかその足場はすぐに消えてしまった。  見えないけれど、カラカラと岩の欠片が落ちていく音がする。  え、足元……崩れたりしねぇよな? 「ちょ、やめろって!今オレお前らに構ってらんねぇの!!忙しいんだよっ!!」  この足場が崩れたらオレどうすればいいんだ?  そんなことを考えつつ、足元の手をぞんざいに払う。   「フーッ!」 「シャーッ!」 「あ~こらこら、お前らは落ち着け!爪を出すな!!オレが痛いんだってば!オレを引っ掻いてもどうにもなんねぇぞ!?」  大量に近づいてくる霊の気配に子猫たちが怯えてオレのTシャツの中で暴れ出した。   「あ痛てててっ!こら、落ち着けって!大丈夫だからっ!おいおいどこ行くんだよっ!?出ちゃダメだって!」  興奮した一匹が出て行こうとしているのがわかって焦る。  今Tシャツから出られちまったら探せないんだってばっ!!  確実に海に落ちちゃうし、そうなったらオレには助けられねぇぞ!?   「待て待て、ちゃんとここにいろって!……あ……れ?」  オレが子猫に気を取られている間に、気が付けば霊たちに周囲を囲まれていた。  子猫はますます怯えて暴れるし、周囲から手が伸びて来るし……  あ、これはダメだ……ヤバ……  一斉に霊が覆いかぶさってきて、“絶体絶命”の文字がオレの頭を過ぎった。  由羅――っ!! ***

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