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両手いっぱいの〇〇 第237話

「私も何度か、科学では証明できない不可思議な現象に巻き込まれたことがあるんだ――」  由羅は幼少期、普通の人には視えないものが視えていたらしい。  幼少期から賢かった由羅は、そいつらが自分にしか視えていないということにすぐに気づいたので、周囲に言うこともなく、極力関わらないようにしていたのだとか。  ただ、弱っている時や精神的に負の感情が昂ると、たまに今回のオレのように空間の(ひずみ)のようなところに連れていかれて、迷子になりそうになったことがあったらしい。  だが、そいつらはある時を境に視えなくなった。  由羅は、そいつらが視えていたのは実父と祖父の間で板挟み状態になったことで精神状態が不安定になっていたせいだと思っていたらしい。 「だとしても、別に視えていた時の自分の頭がおかしくなっていたとは思わないし、存在を否定しているわけじゃないぞ?視えていたのは事実だ」 「そっか……」  あ……もしかして…… 「なぁ、だから、オレがたまに変なことしても何も言わなかったのか?」 「変なこと?」 「えっと、ほら、例えば杏里さんの家のキッチンをぐちゃぐちゃにしちゃった時とか……」  以前、莉奈が興奮したせいで、キッチンの中がそこだけ竜巻でも起きたかのようにぐちゃぐちゃになったことがあった。  様子を見に来た由羅は、どう見てもそこにはオレしかいないんだから、オレがしたと勘違いをしてもおかしくないのに、特にオレに説明を求めることもなく、オレを責めることもなかった。 「あぁ……そうだな。ああいう現象も経験があったからな。それに、綾乃があんなことするわけがない」 「あ、うん……まぁそうなんだけど……っつーか、じゃあ、オレが視えることも知ってたのか?」 「……知っていたというか……たまにひとり言をいっているし、誰もいない空間をやけに気にすることがあるから、もしかしてとは思っていた」  ええええっ!?  待って、じゃあ、オレが莉奈と喋ってるのも気付かれてたってことか!!  いや、相手が莉奈だってことには気づいてない……か? 「莉奈も近くにいるんだろう?」 「ウヒェッ!?」  気づかれてたぁあああああああっ!!! 「ああああの、えっと、それはですね……!?」 「隠さなくてもいい。莉玖をみながら誰かと莉玖のことを話しているのをよく見かけるからな」 「あばばばば、あの、別に隠すつもりはなくてですね!?あああの、それは……えっと……」 「綾乃、落ち着けっ!別に責めてるわけじゃない」 「あの、でも、その……」  だって、そうは言っても……莉奈はお前の妹だし、莉玖の母ちゃんだし……   「綾乃!」 「……っんぅ!?――」  え~と……うん、パニクってたオレも悪いけどさぁ……  落ち着かせるためにわざわざキスする必要あるか?  こんなの逆に落ち着きませんけど!?  いや、気持ちいいけどさぁ……って、気持ちいいってなんだよっ!?  由羅はパニクっていたオレをキスで黙らせると、そのままベッドに押し倒してきた。   「ん……は、っ……」  おい、待て!長いっ!!!   「由っ……ちょ、まっ……んっ……」  あの、由羅さん!?  もういいんじゃないでしょうか!?  オレ落ち着きました!はい!もう大丈夫です!!  だから、もう……許して……っ!!  そろそろオレ息が……できな…… 「……綾乃?おい、大丈夫か?すまない、ちょっとやりすぎたか?」 「……っ……ゲホッ」  由羅が口を離した時には、オレは酸欠で意識が朦朧としていた。   「綾乃?」 「も……やらぁ……ゆぁのばかぁ……」 「……すまない、その顔で言われると誘われてるとしか思えないんだが……」  は?何言ってんのこいつ?  お前は今すぐ眼科に行ってこい!!  あ~もう、頭が……酸素が……むり……  一発叩いてやろうと振り上げた手が由羅に届く前に、オレの意識は途切れていた―― ***

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