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両手いっぱいの〇〇 第238話

 何かが足元からモゾモゾと這い上がって来る感覚で、目が覚めた。  重い……  何だ?一体何が…… 「あ~~の!おっち!まんまっ!」 「……っ!?ぅ゛~~~……?」  バチンッと顔を叩かれて、オレは思わず唸った。  莉玖かぁ~……?   「こらこら、莉玖!綾乃はまだねんねさせておいてやれ」 「や~の!まんまぁ~~っ!」 「ご飯は一路たちと食べて来たんだろう?もうお腹空いたのか?」  莉玖が叩くのを止めないので、由羅が慌てて莉玖を抱き上げた。 「めっ!パッパ、めっ!」 「なんでパパが怒られなきゃいけないんだ……」 「そりゃ、せっかく目を覚ました綾乃ちゃんに無理をさせたのはあなただからでしょ?」  呆れたような杏里の声がした。   「私は別に無理など……」 「目が覚めたばかりの綾乃ちゃんにいきなりお説教はするわ、酸欠になるまでキスはするわ……一体何考えてるのっ!!」  うん、ホント何考えてんだろうな……っつーか、なんで杏里さんはそんなことまで知ってんの?  気になることが多すぎて、逆に起き上がれなくなった。  寝たふりをしたまま様子を窺う。 「説教というか……私はただ、心配をしたという話を……」  いや、あれは完全にお説教だった。  心配したなんて言ってなかったぞ?  もちろん、心配してくれてたのはわかってるけどさ…… 「とにかく、今は安静にしてないと。響一はもういいわ。莉玖を連れて帰りなさい。綾乃ちゃんの面倒は私がみます」 「ちょ、姉さん!?何を言ってるんですか!綾乃は私の……」 「あなたが夏休を取っている間は、自分のことは自分でしなさいってことよ。たった数日なんだから出来るでしょう?」 「そりゃ、自分のことは自分でしますけど、そういうことを言っているんじゃなくて……」  んん?  何だか話が変な方向に流れていってる気がするな……  杏里さんがオレの面倒をみるって?  いやいやいや、そんなことまでしてもらうわけには……っ!!  オレは慌てて起き上がった。 「あのっ!!杏里さん、オレなら大丈夫です!!もう元気だし、どこも異常ないらしいから、オレ、もう退院できるはずだし」 「あら、綾乃ちゃん。急に起き上がって大丈夫なの?」 「え?……あ……れ?」  ガバッと起き上がったものの、クラっと眩暈がしてそのままひっくり返った。  うぇ……ぁんだこれ……ぎぼぢわ゛る゛…… 「急に起き上がるからだ、バカっ!しばらくじっとしていろ」  由羅が慌てて近付いてきてオレの額に手を当てた。 「ぅ゛~~……目が回るぅ~……」  目が回ってくらくらする中、由羅の手がやけに安心できた。 「響一!それが余計なのよ!なんでいちいち悪態を吐くのかしら!小学生でもあるまいし、心配してるなら心配してるって素直に言いなさい!鬱陶しいわねぇ!」 「なっ、小学生って……」 「好きな子には優しくしないと嫌われるわよ?」 「ぅ……私は優しくしてます!!」  あの~……何の話してんの?  とりあえず……どっちもうるせぇ……ちょっと静かにして…… 「あ~~のっ!!だっ!だっと!」 「こら、莉玖。綾乃は今無理だよ。パパが抱っこしてるだろう?」 「パッパ、やっ!あ~の、だっとぉ~~!」  莉玖まで参戦してきて、もう何が何やらという状態になった瞬間、病室の扉が開いて「お静かに!」と注意をされた。 「「すみません……」」  二人がシュンとなって気まずそうに謝る。  あ~もう……ほんとこの姉弟は……  普段はどちらもしっかり者で、カッコいい大人代表みたいな二人なのに、二人が揃うとたまにこういう子どもみたいな姉弟ゲンカを始めるのが面白い。  眩暈で吐きそうなのに、思わず笑ってしまいそうになった。 『笑ってる場合かしらね?二人が言い合ってる原因は綾乃くんなんだけどな~……』  莉奈が何か呟いた気がしたが、オレの耳にはよく聞こえなかった。 ***

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