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両手いっぱいの〇〇 第239話
「綾乃!何してるんだ!?」
「ぅわっ!?っとっと……っぶねぇ~!急にデカい声出すなよ!落としちゃうだろ!?何してるって……食器洗ってるだけですけど?」
由羅の声に驚いてお皿を落としそうになりながらもなんとか死守したオレは、恨めしそうに由羅を見た。
「あ、すまない……いや、洗うのは私がやるから綾乃は座ってろ」
由羅が声のトーンを落として、オレから皿を取り上げた。
「いや、別にオレそれくらい出来ますけど?っつーか、どこも異常ないんだし、普通に家事出来るって。お前こそせっかくの休みなんだから、出掛けるとか、莉玖を連れてどこか遊びに行くとかして来いよ」
「莉玖なら姉さんのところだし、私の役目は綾乃の看病だ」
「だから、オレ元気だってば……」
***
杏里と由羅は病室で、どちらがオレを連れて帰るかで約1時間程揉めていた。
そんなに揉めるようなことかねぇ……?
由羅は雇い主だからと主張し、杏里は由羅ではオレに無理をさせるだけだからダメだと主張し……いや、この場合、どう考えても由羅の言ってることの方が正しい気がするけど、そうはならないのが姉弟ゲンカの面白い所で……
「だいたい、綾乃ちゃんを連れて帰っても、家のことをするのは綾乃ちゃんでしょう?莉玖だって、綾乃ちゃんがいると結局は綾乃ちゃんに引っ付いて行っちゃうし……そんなの全然安静に出来ないじゃないの」
「それは……私が何とかする!パパイヤは終わったみたいだから、私と二人でも何とか泣かずにいてくれるし……」
「だから、莉玖のことはあなたが面倒みなさい。綾乃ちゃんのことは私がみます――」
「あの~……もしも~し……もしもぉおおおおっっっしっ!!」
オレは二人の間に手を挙げて入り込んだ。
「なんだ?」
「なあに?」
二人が同時にオレを見る。
「えっと、杏里さんのお気遣いは嬉しいですけど、オレ全然元気なのでもう大丈夫ですよ?」
「あら、だめよ~!3日間も起きなかったのよ!?」
「あ~えっと、そうなんですけど……でもほら、もう全然……」
「ダメだ」
腕を振り回して元気アピールをしてみるも、二人から口々に却下されてしまった。
「わかった!そんじゃ、1日……あ~、2日!休み貰います!仕事せずにマンションでゴロゴロしてます!その間は、由羅が莉玖のことをちゃんとみる!それでいいだろ?」
「2日?少なくない?響一はまだ後4日くらいは仕事休みでしょう?」
「そうですが……ちょっと待て綾乃。休みを貰うと言っても、あの部屋じゃ料理も出来ないし洗濯も出来ないだろう?」
オレの部屋に来たことのある由羅が、余計なことを思い出した。
まぁ、たしかに……寝る以外は由羅の家でしてたから……
「飯は適当にコンビニで買うし、洗濯も別に……また後日まとめて洗わせてもらうし……」
だって、夏だから、家ではパンイチだし?
何ならパンツだけなら風呂場で手洗いでもいいくらいだし……
「……姉さん、お願いがあるんですが」
「なぁに?」
これで落ち着くだろうと思ったら、何やらまた二人でボソボソ話し出した。
まぁ、言い合いはしてないみたいだから別にいいけど……
「それじゃあ、そういうことで」
「わかったわ。その代わり……わかってるわね?」
「わかった。……というわけで、うちに帰るぞ」
「へ?」
待て!何がわかったんだ!?
「退院の手続きをしてくるから、綾乃は帰る用意をしておけ」
「あぁ、響一。それは私がしておくわ」
さっきまで言い合っていたくせに二人が急に連係プレーを取り出した。
だ~か~ら~……一体何がどうなったんだ!?
「帰る用意と言っても、大して荷物はないな」
「あっ、ごめん!オレするよ」
「お前は服を着替えろ」
「え?あぁ、はい」
由羅が出してくれた服に着替える。
「なぁ、オレこんな服持ってたっけ?」
アシンメトリーのちょっと変わったデザインの服だった。
「新作の一点ものだから持ってないと思うぞ」
「へぇ~……新作……?」
「今年の夏の新作だと言っていた」
「誰が?」
「デザイナー」
「デ……はい?」
「デザイナーだ。その服をデザインした人間のことだ」
「それくらい知ってるっつーの!!そうじゃなくて……」
「先日、たまたま知り合いのデザイナーと会う機会があってな。いわゆるファッションショー用に作った服の試作品を持って来ていて、要らないかと聞かれたので……綾乃に似合いそうだなと思った服を数点貰った」
「貰ったっておまっ……」
「試作品と言っても、一応ちゃんと店に出せるレベルのものだぞ?ただ、量産するには難しい部分などを多少変更して店に出すから……」
うん、よくわかりません!!
オレ服にこだわりねぇから、デザイナーとかブラントどか全然気にしないし……
っつーか、そういう高いのは買わねぇから……
でもまぁ、由羅は貰ったって言ってるし、試作品?って言ってるし……あ!あれかな?スーパーとかで化粧品とかの試供品とかもらう感覚かな!?
何か違う気がするけど!!
もうついていけないから、とりあえず、お礼だけ言っておこう……
「あ~もういいです。はい。なんかよくわかんねぇけど、ありがとうございます!!」
オレはそれ以上詳しく聞くのは止めて、帰る支度をした。
***
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