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両手いっぱいの〇〇 第241話

「綾乃のポケットに入っていたのはこれだけだったぞ?」  由羅がキーケースを持ち上げて軽く振った。  やっぱりそうだよなぁ~……   「因みに、コレは私のキーケースなんだがな」 「……へ?」 「あの朝、慌てていたから綾乃が間違えて私のキーケースの方を持って行ったんだ」 「……え、マジで!?」  オレと由羅のキーケースは、水族館に行った時にお揃いで買ったものだ。  というか、オレは「お揃いなんて恥ずかしいから絶対イヤだ!」と言ったのだが……オレが莉玖とぬいぐるみを選んでいる間に由羅がこっそり買ったらしく、後で渡された。 「あんなに嫌がっていたのに、使ってくれていたんだな」  由羅がやけに嬉しそうな顔で笑った。 「あっ!いや、そ、それは……その……っ!」  せっかく貰ったからまぁ……使わないのも悪いかな~と思って……それだけだぞ!?別にお揃いが嬉しいとかそういうのじゃねぇから!!  由羅にはイヤだと言った手前、使っていることは黙っていたのだが……どうやらオレは自爆したらしい。 「一応、綾乃がお揃いはイヤだと言っていたから、私のはマンボウで綾乃のはイルカにしたんだぞ?だから、完全にお揃いというわけじゃない」  由羅が若干不服そうに二つのキーケースを見せて来た。 「パッと見じゃわかんねぇよっ!!」  キーケースを見比べると、たしかに模様が違う。  でもどちらも同じような配色だし、よく見ないとわからない。  由羅のキーケースには、家の鍵以外に、車の鍵と会社の鍵もついていた。 「ホントだ……うわ~、ごめんっ!え、待って、お前車乗れたのか!?いや、それよりも!会社開いたのか!?」 「あぁ、スペアキーがあるから別に大丈夫だ。会社の鍵も私以外にも持っている人間はいるしな」 「そか……」 ***  ほっとしながら、ふと考えた。  え、もしかして……由羅のキーケースだったから?  由羅が普段から持ってるってことは、少なからず由羅の霊力の影響を受けているはずだ。  だから、あの時……熱くなったのかな?  あの光ももしかして…… 「由羅ぁああああああ!!ありがとぉおおおおおおお!!」  御守りの代わりに由羅のキーケースが助けてくれたのだとわかって、オレは感極まって由羅に抱きついた。   「ぅわっ!?急になんだ!?何がどうしたんだ!?ちゃんと話せ!おい、綾乃っ!?」 「命の恩人だぁあああっ!」 「わかったから、ちょっと落ち着け!!」 「オレ、マジでもうダメかと思っ……」 「だから何が……っ!?待てっ!なぜ泣いてるんだ!?私か!?私が何かしたのか!?」 「いや……今になってちょっと……ははっ」  あのままあいつらに憑り込まれていたら今頃自分はどうなっていたのかと思うと、急に怖くなった。  でも、オレが急に泣き出したせいで由羅がやけにアタフタしているのが面白くて、泣きながら吹きだしてしまった。 「まったく……泣いたり笑ったり忙しいやつだな……」  由羅はため息を吐きつつもオレを抱きしめると、莉玖を宥めるように背中を撫でてきた。 「頼むから、私が傍にいない時に危険なことに首を突っ込むな」 「オレだって……突っ込みたくて突っ込んだわけじゃねぇし……」 「そうだな。じゃあ、頼むからせめて御守りは手放すな」 「……え?」 「莉玖が同じ御守りを二つも持っていた。あれは綾乃が自分の分の御守りも持たせてくれていたのだろう?だが、自分の身も満足に守れないなら、御守りは手放すな!」 「ぅ……だけど、由羅のキーケースがあったし!」 「それは結果論だろう?私のキーケースだとわかっていたならともかく、私が言うまで気づかなかったくせに」  そうだけど……  シュンとなったオレを見て、由羅が自分の額を軽く掻いた。 「すまない。怒ってるわけじゃなくて……心配しているだけだ。私はいつも言い方が悪いな……心配したんだ……本当に。見つけるまで生きた心地がしなかったぞ」 「……ごめん……」 「ああいう(やつら)に目を付けられやすいのなら、少し慎重になれ」 「はい……」  オレを抱きしめる由羅の手が少し震えている気がして、オレは大人しく由羅の言葉に耳を傾けた。  確かに、今回のはオレがちょっと軽率だったな……  最近由羅のおかげで霊が寄ってこないから……ガードが緩くなっていたのかもしれない。  気を引き締めよう…… ***

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