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両手いっぱいの〇〇 第244話

「綾乃~、これはここら辺でいいのか?」 「ん~?う~ん……ちょっと右が下がりすぎかも」 「右……これくらいか?」 「あ~そうそう、そこ……より、気持ち1cmくらい下」 「気持ち1cm!?これくらいか?」 「もうちょっと!」 「1cmはこれくらいだ!」 「え~?こっちからだと1cmはこれくらいだぞ?」 「……なんだそれは……そっちからの1cmじゃなくて、実際の1cmで言ってくれ……」 「んなもんわかるかよ!あ~もう!別に適当でいいよ適当で!」 「適当はダメだろう!?」 「ちょっとくらい歪んでてもそれはそれで味があっていいんだよっ!由羅はもっとおおらかになれよ!」 「綾乃は適当すぎる時があるが……わかった、じゃあ……ここでいいか……」  なんだかんだと言いながらも、朝っぱらから二人で部屋中を飾りつけた。   「よし、そんじゃ次は……料理だな」 「材料はあるのか?」 「ちょっと足りないのがあるから買い物行くか。もう店も開いただろう」  オレは時計を見ながら壁面飾りの残りを片付けた。  豪華な料理は必要ない。  けど、どうせなら何か特別なのがいいなという話になって、なぜか由羅も一緒に作ることになった。  パパの手作り料理(ほぼ初挑戦)だ。  まぁ、莉玖にとってというよりは、由羅にとって思い出に残っていいかもしれないな。  一緒に作るオレがしっかり教えればいいわけだし……頑張れオレ!!   *** 「――で、その結果がこれね?」  杏里は、由羅とオレが一緒に作ったという料理の写真をマジマジと見ながら、ふんふんと頷いた。  莉玖のお誕生会の翌日。  杏里は、買い物に行くついでにわざわざお菓子を買って持ってきてくれた。  由羅家に特に用事はなく、単に昨日の誕生会の様子を聞きたかっただけらしい。 「スゴイじゃないの!美味しそうだし、可愛く出来てるじゃない!」 「ですよね?オレも上手に出来てるって言ったんですけど……」  由羅が一緒に作るので、手の込んだ料理は教えるのが大変だ。  そこで、料理の内容ではなく、見た目に力を入れることにした。  キャラ弁みたいに可愛くデコる!  と言っても、難しいキャラは無理だから、莉玖の好きな水族館をイメージして作ることにした。  海の生き物の抜き型や押し型を買って来て、そこにご飯を詰める。  最初はオムライス系にしようかと思ったが、由羅がカレーが食べたいと言いやがったので、カレーになった。  つまり、さかなの形のご飯の周りにカレーのルーを流し入れて、そこに人参やチーズを星やさかなの形に抜いて浮かべるだけだ。  超簡単!……だよな?   「で、なんであの子はあんなに落ち込んでるの?」  杏里がソファーでふて寝をしている由羅を指差した。 「あ~……それが……」  カレーのルーは、「ほぼ煮込むだけだから!」とオレが作った。  由羅と作っても良かったんだけど、包丁の扱いが危うい由羅に材料の切り方を教えるのがちょっと面倒だったから……んん゛、まぁ、面倒だったから!(二回目)  由羅には、他の材料の型を抜くのと、飾りつけを担当してもらった。  子どもの頃、お砂遊びをしたことがあればだいたい感覚的にわかると思うんだけど、由羅はあまりその経験がなかったらしく、押し型にご飯を詰めるのも加減がわからず何度か失敗していた。  まぁ、別に白飯だし、何回でもやり直せばいいので問題ない。  3回目くらいにようやくキレイに抜くことが出来た。  それから、海苔やチーズを使って目も作った。  そこまで細かい作業はなかったので、由羅もなんとか上手に飾り付け出来た。  ……と思う。  うん、だって、押し型を使うんだから、ご飯はさかなの形になってるし?  目も上手に出来てたよ?  ただ……ルーをね……さかなの形のご飯の上にかけちゃったんだよな~……  オレは「横からそっと流しこむ感じ」って言ったんだけど……由羅はいつもの調子で……ダバーッと……豪快に上から…… 「あらら……でもそんなの、やり直せばいいじゃない。っていうか、え、これ別にルーかかってないわよね?」  杏里がもう一度画像を見て首を傾げる。 「それは成功したやつです。だから、失敗したのはオレと由羅が食べて、莉玖の分は成功したやつを出したんで全然オッケーだったんですけどね?」 「え、待って?綾乃ちゃんと響一が食べたってことは、少なくとも二回は失敗したってこと?」 「あ……えっと……」  一回目は、ご飯の上にルーを豪快にダバーして、気を取り直しての二回目は……なぜかルーの上に飾りつけるはずのチーズや野菜を先にお皿に並べちゃって、その上からルーをダバー……したので、せっかくのチーズのさかなたちが沈んでしまって見えなくなったっていう…… 「あらま……」 「でも三回目はちゃんと上手に出来たから、莉玖も喜んで食べてくれたんですけどね?」 「莉玖が喜んだならいいじゃないの。それくらい失敗のうちにも入らないわよ!」 「オレもそう言ったんですけどね~……」  食えなくなったわけじゃないし、三度目の正直でちゃんと莉玖の分は作れたんだからいいじゃねぇかって…… 「でもほら……あいつって完璧主義っていうか、あんまり学生時代に挫折とかしたことないんでしょ?」 「あぁ、そうねぇ。挫折っていうか……おじい様が常にトップじゃないとダメっていう考えの人だから……」 「そのせいか、二回も失敗したことがショックだったみたいで……んで、です」 「なるほど……ウザいわね。挫折なら莉玖を引き取ってから何度も経験してきたはずでしょうに」  たしかに、莉玖との生活は挫折の連続だったのだろうと思うが…… 「私の失敗談を話しのネタにして楽しいですか?」  ソファーでふて寝をしていた由羅が、のっそりと起き上がってオレたちの会話に入って来た。 「あら、起きてたの?そんなの、楽しいに決まってるじゃないの。可愛い弟が子どものために頑張ってる姿なんて姉として微笑ましいわ~」  杏里がわざとらしく頬に手をあてて「ほほほ」と笑った。 「それはどうも。さてと、お忙しいお姉様はそろそろ帰った方がいいんじゃないですか?買い物に行くとか言ってませんでした?」 「まだ時間はあるから大丈夫よ」 「いやいや、もういっぱい話したでしょう?私の失敗談はもう終わりですよ!ほら、今日はもうお開きです!」  由羅は手をパンパンと叩いて、杏里を追い立てた。 「んもぅ!お姉様を追い出そうだなんてひどい子ねぇ!まぁ、今日のところは帰ってあげるわ。それじゃ綾乃ちゃん、またね」  杏里はそんな由羅の様子も面白いらしく、軽やかに笑いながら颯爽と帰って行った。 ***

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