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両手いっぱいの〇〇 第247話
「由羅が昔使っていた?」
オレはブレスレットをそっと指先でつまんで目の前に持って来ると、まじまじと眺めた。
すげぇ、キレイな黒……吸い込まれそう……
「そのブレスレットはモリオン……いわゆる黒水晶と呼ばれる石が使われている……らしい。昔まだよくいろんなものが視えていた頃に、祓い屋みたいなことをしている怪しい人に貰った」
「ぅおおいっ!!怪しい人に貰うなよ!知らない人や変な人にものを貰っちゃいけませんって先生に言われなかったか!?」
オレは真顔の由羅に思わずツッコんだ。
「見た目がどう見ても怪しいんだ。見た目だけなら詐欺師かと疑いたくなるような……だが、霊視出来ることは確かだった。私が視えているものがその人にも視えていたからな。除霊や浄化がどういう方法でされているのかはわからないが、実際に祓っているところも見た。だから、怪しいけど怪しくない。それに、そのブレスレットはタダで貰った」
「タダより怖いものはないけどな……」
「私も最初、同じことを言って断ったんだ。そうしたら……」
由羅は霊力が強すぎるから、自身が負の感情を抱いた時に餌食にされやすいのだとか。黒水晶は魔除けや邪気払いの他に、マイナスエネルギーを吸収して守ってくれる効果もあるので、由羅自身の負の感情からも水晶が守ってくれる……かもしれないと。
「おい、最後!!なんかいまいち曖昧だなぁ」
途中まではなんかそれっぽかったのに……
「まぁ、安定剤にはなってくれるんじゃないかと言っていた」
「安定剤?」
「精神の安定剤。私が負の感情に取り込まれないようにするためのな。ちょうど……その頃の私は思春期で、父や祖父のことでだいぶやさぐれかけていた時だったから、それを見抜かれたのだと思う。その石にどれほどの効果があったのかはわからないが、一応それを身につけるようになってからはあまり妙な考えを起こそうとは思わなくなったし、変なのにも絡まれなくなったし、妙な体験をすることもなくなったから、多少は効果があるんじゃないかと思う」
「へぇ~……」
たしかに、父と祖父との間で板挟みになっていた由羅は両方からの悪い気をずっと受け続けていたわけだし、ずっと負の感情を向けられてると由羅自身にも影響出てもおかしくねぇよな……
どうやったのかはよくわかんねぇけど、一応その怪しいやつの言う通りにこのブレスレットは由羅を守ってくれていたらしい。
「で、何でそれをオレに?」
「先日、私のキーケースを持っていたおかげで助かったと言っていただろう?」
「あぁ……」
由羅のキーケースのおかげかどうかはわからないが、大量の霊に襲われかけた時に急に突風が吹いて眩しい光が辺り一面を覆いつくした。
オレは目を開けることも出来なかったので、その風や光の発生源がどこなのかは確認できなかったが、ただその時ポケットに入れていた由羅のキーケースがめちゃくちゃ熱くなっていたのを感じたので、そのキーケースが助けてくれたと勝手に思い込んでいるのだ。
「綾乃から話しを聞いた後、いろいろと考えてみたんだが……キーケース自体はまだ買ったばかりだから、いくら私のものだとしてもたいした霊力 はないはずなんだ。だが、中の鍵は私が長年使っているものだから、たぶん鍵 の方に私の霊力が宿っていたのだと思う」
「あぁ……言われてみれば……」
そりゃそうか。キーケースは水族館で買ったんだもんな……
「それなら私が昔よく身につけていたそれなら、数年分の私の霊力が宿っているかもしれないと思ってな……しばらく使っていないからどうかわからんが……何か感じるか?」
「う~ん……」
何か感じるかと言われてもな~……
オレあんまり霊力ないからわかんねぇんだよな~……
「一応しばらく使っていなかったから浄化はしてあるんだが……」
「浄化?」
「石のメンテナンスみたいなものだな。他の石と比べると、黒水晶はあまり浄化の必要はないらしいが、私の場合は石に負担がかかりすぎるから定期的に浄化しておけと言われて……」
それって……そんだけこの石が由羅に関わる負の感情を吸い込んでくれてたってこと?
「って、ちょっと待てよ。そんなスゴイ石なんだったら、莉玖に持たせた方がいいんじゃねぇの?」
「そうかもしれないが、今は莉玖が口に入れると危ないし、基本的に私か綾乃がついているのだから莉玖は大丈夫だろう。それよりも心配なのは綾乃の方だ。自分の御守りまで莉玖に渡してしまうからな。あっちの御守りは莉玖に渡してもいいが、それは必ず綾乃が身につけておけ」
「あ~……ははは」
「笑い事じゃない!」
「はいっ!スミマセンっ!」
「とにかく、しばらく持っていろ。それでもまだ変なのが寄ってくるようなら何か別の対策を考える」
「へ?あ、はい……」
対策を考えるって、由羅はもう視えねぇのに……どうやって?
オレは首を捻りつつも、ブレスレットを袋に戻してポケットに入れた。
***
「――由羅っ!」
寝室へと向かう途中、ふとお礼を言っていないことに気付いて、由羅を引き留めた。
「なんだ?」
「あ、えっと……心配してくれてアリガトウゴザイマス……あと、このブレスレットも……」
「あぁ……」
由羅は少し口元を綻ばせてポンポンとオレの頭を撫でると、そのまま軽く抱き寄せて
「誕生日おめでとう。遅くなってすまなかったな」
と囁いた――
***
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