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両手いっぱいの〇〇 第248話

――……あ、そうだ。綾乃、莉玖を花火に連れて行くのはまだ早いか?」  由羅の夏休が終わって、いつもの昼休憩のテレビ電話中。  由羅がふと机の上のカレンダーを見て言った。 「ん?あ~……花火大会でも行くのか?そうだなぁ、混雑具合と、花火との距離……にもよるんじゃねぇの?」  オレは、お昼寝したばかりの莉玖を軽くトントンしながら、斜め上を見た。  莉奈もうんうんと頷いていた。 「混雑具合と距離か……」 「大きい花火大会とかだと、会場は大混雑だろ?まだまだ夜も暑いし、小さい子を連れて行ったら人混みや暑さでぐずることもあるし、トイレも困るし……何より、初めてだとすれば大きな音に驚いて泣いちゃう可能性の方が高いからな。あんまり花火を楽しむ余裕なんてねぇかもよ?まぁ、連れて行くのはお前だし、好きにすればいいけど」  保護者からも、この時期、花火大会やお祭りに連れて行ってみたものの、結局子どもがぐずってすぐに引き返したという話しはよく聞いた。  莉玖はまだ2歳になったばかりなので、オレとしてはそういう会場に行くのはあまりオススメ出来ない。  でも、最終的に決めるのは由羅だからな。 「なるほど……わかった。それじゃあ、花火の前に帰って来るか。まぁ、そんなに有名な花火大会というわけじゃなくて、小さい神社の夏祭りなんだがな。たしか、いつも最後に少しだけ花火があがるんだ」 「へぇ~?」  神社の夏祭りか~……  っていうか、近所に神社なんてあったのか……  あんまりこの近所を散策したことねぇしな~…… 「屋台も出ているはずだ。クリスマスのイルミネーションを見に行った時のように、ざっと屋台を回って戻って来るくらいなら大丈夫だろう?」 「まぁ、それくらいなら……大丈夫だと思うけど?」  屋台……いいな~……  オレの頭の中には、たこ焼き、焼きそば、かき氷……屋台の定番メニューが次々に浮かんで来た。  あの匂いがたまんねぇんだよな~……あ、やばっ、よだれが……!   「よし、それじゃ、その日は空けておいてくれ」 「んぇ?オレ?」 「私は綾乃と話していたはずだが?」 「え、いや……だって……」  会話はしてたけど、オレ今の会話の中で一言も誘われてませんけどっ!? 「あ……待て!」 「へ?」  何を?  すぐに返事をしないオレを見て、由羅が急に画面に向かって手のひらを向けてきた。  オレは、一瞬手のひらに何か書いてあるのかと思ってマジマジと見てしまった。  ほら、仕事中とか急に大事なことを言われたりして近くにメモがない時とか、咄嗟に忘れないように手に書いたりするだろ?え、オレだけ?   「いや……すまない。そうだな。気が急いてちゃんと言ってなかった。綾乃、良かったら一緒にお祭りに行かないか?」 「え、あ~……」  急に由羅が真面目な顔で誘って来たので、ちょっと焦る。  誘われてねぇし!って思ったけど、そんな真剣に誘って来なくても……もっとほら、ラフに言ってくれねぇと……反応に……困る…… 「えっと……別に……いいけど?……って、っていつっ!?」 「ん?あぁ、明後日だ。何か用事はあるか?」 「明後日か。う~ん、まぁ特に用事はねぇから大丈夫だと思う――」  休日の過ごし方について……由羅はなんていうか、その……オレとデ……デートが……したいから休みの日も一緒に出掛けたいらしい。  でも、莉玖も一緒だとオレにとってはデートっていうより、ただの休日出勤的な感じになってしまう。  いくら由羅が莉玖をみると言っても、一緒にいれば結局はオレも莉玖をみることになるし、そうするとオレが休めないってことになるから、休日オレを誘いたくても誘えなくて困っているのだとか。  だが、莉玖を杏里に預けてまでデートがしたいわけじゃないので、今は莉玖との時間を大切にしていく。  ……と、オレが病院で爆睡していた時に杏里に言っていたと莉奈から聞いたのは、ついさっきのことだ。  どこが困ってるんだよ……めちゃくちゃ普通に誘って来たぞ? *** 『神社なんて……この近くにあったかしら……』  通話を終えると、莉奈が腕を組んで首を傾げつつくるっと一回転した。  ふよふよ浮いているので、無重力状態で縦横無尽に動けるのはちょっと羨ましくもある。   「近所の神社じゃねぇのかな?」  てっきり、この近所の神社なんだと思っていたが…… 『う~ん……兄さんが言ってるのはあっちの家の方かしら……』  あっちってどっちだよ……家がいっぱいあると大変だな……  あのじいさんって、自分の土地とか持ち家とか、全部把握してんのかなぁ~……   「おっと、そろそろ莉玖が起きちゃうな。先に洗濯物取り込んでくるか」  莉奈に莉玖を任せて、オレは急いで洗濯物を取り込みに行った。 ***

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