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両手いっぱいの〇〇 第249話
「あっ!莉玖!ほら見て!?りんご飴!あ、こっちは綿あめだ!ほら、ふわふわだな~!」
「お~!う~ぁう~ぁ!ね~!」
オレは由羅に抱っこされている莉玖に屋台を指差しつつ話しかけた。
「うん、ふわふわだな~。食べる時もふわふわなんだぞ~!?」
「綿あめが欲しいのか?」
「え?いや、ふわふわだなって話しを……」
「欲しければ買っていいぞ?」
「いや、オレは別に……あ、ほら、莉玖!あっちに焼きトウモロコシだ!」
「お~!」
「おいしそうだな~」
「な~!」
「あ、こっちは……」
「綾乃!わかったからちょっと落ち着け!!迷子になるぞ!?」
「え?あ……はぃ……すみません」
ひとりではしゃいで屋台をウロウロしまくっていたら、由羅に襟首を掴まれてしまった。
***
由羅に連れられてやって来たのは、莉奈の予想通りに由羅の家の近所ではなく、少し離れた町の神社だった。
莉奈が言うには、昔は祖父母がこの近くに住んでいたのだとか。
だから、祖父母に引き取られていた由羅も、この神社に来たことがあるのだろうと……
由羅は小さい神社だと言っていたが、思っていたよりは大きくて屋台もいっぱい出ていた。
花火よりも前に帰って来るつもりで少し早めにやって来たので、まだ始まったばかりで準備中の屋台もあった。
「子ども多いな~」
時間が早いせいか、小学生高学年くらいから中学生くらいの子どもだけで来ている子達が結構いた。
高校生以上の子達は花火に合わせてもう少し遅く来るのかもしれない。
懐かしいな。オレも昔、幼馴染たちを連れて近所の夏祭りに行ったな~……
とか思いながら屋台を見ているとテンションが上がってしまって、ちょっとはしゃぎすぎました。スミマセンっした!!
「綾乃、今ならそんなに並んでいないから買いやすいぞ?」
「え?いや、オレ別に買いたいわけじゃねぇよ。見て回るのが好きなだけだよ。ただの冷やかしだ」
「そうなのか?」
「だって、屋台のって高いんだもん」
一応両側に屋台があるので、声を潜める。
「あぁ……まぁたしかにな」
「だから、屋台を見て回って匂いだけ嗅いで腹減らして、家に帰って焼きそばとかお好み焼きとか作るのが定番だったんだよ」
何だそれ?と思われるかもしれねぇけど、そうすると、具が少ない焼きそばやお好み焼きでも何となく普段よりも美味しく感じたんだ……当時はな……
年下の幼馴染たちは屋台のやつを食べたがっていたが、親からもらっている一ヶ月のお小遣いは少ない。
屋台で無駄遣いするくらいなら、それを貯めておいて、少しでも普段の食費に回した方がいいのだ。
とは言え、さすがに何もかも我慢させるのは可哀想なので、家に帰ると焼きそばやお好み焼きやチョコバナナを作ってやっていた。
「そうか……私はお祭り自体あまり行ったことがない。祖父がそんなものに行く暇があるなら勉強をしろという人だったからな」
「そんなものって……お祭りなんて年に一回か二回だろ?」
「そういう人なんだよ」
「じゃあ、ここにはいつ来たんだ?」
「中学……2年生くらいの時かな。いわゆる反抗期、思春期というやつか、それまでは言われる通りにひたすら勉強をしていたんだが、ふと何で祖父と父の親子喧嘩のせいで私がこんなに頑張らなきゃいけないんだと思ってな……」
あ、一応由羅もそんな風に思ったことがあったのか。
「それがまともな反応じゃね?」
「かもしれないな。だが、それまではあまり疑問を抱いたことがなかった。人生なんてこういうものなんだろうと諦めていたようなところもあったし」
ん?
いや、それはちょっと……どんな小学生だよっ!?
「それで、初めて仮病を使って塾を早退したんだ。帰るまでの時間潰しにブラブラしていると浴衣姿の女の子たちを見かけて、お祭りの日だということを思い出して……それでちょっと来てみた」
「へぇ~、偶然だったのか」
「そうだな。祭りがあることは街中のポスターで知ってはいたが、自分には関係ないものだったから気にしたことがなくてな。だが、来てみたものの、何をどう楽しめばいいのかわからなかったんだ」
「別に、こうやって屋台回るだけでいいんじゃねぇの?」
「ウインドウショッピングみたいなこともあまりしたことがなかったんだ。だから、買わずに見るだけというのがよくわからなかった」
お、おぅ……
「で、気が付くと、ここに来ていたんだ」
「へ?」
由羅と話しているうちに、いつの間にか屋台の賑わいから外れた静かな場所に連れて来られていた。
「あの……由羅?ここって一体……」
木が生い茂っているせいか、一気に暗くなったように感じた。
「神社の裏だ。たしかこっちに……」
「ちょ、待って!由羅!?どこに行くんだよ!?」
由羅は構わずにどんどん裏の小道に入っていく。
オレはわけもわからずに由羅の背中を追いかけた――
***
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