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両手いっぱいの〇〇 第250話
「おい、由羅っ!どこまで行くんだよっ!?」
由羅は何かに呼ばれているかのように小道をスタスタと歩いて行く。
オレは由羅に置いて行かれないように小走りでその背中を追いかけた。
くっそっ!リーチの差!!
「由羅っ!由羅ってばっ!!待てってっ!もうちょっとゆっくり……」
「ここだ」
ようやく由羅の服を捕まえて、もう少しゆっくり歩いてくれと頼もうとした瞬間、由羅が立ち止まった。
「わぷっ!?」
由羅の背中ばかり見ていたせいで、オレはそのまま由羅の背中にぶつかった。
「……っ痛 ぇ~!急に止まるなよ!急ブレーキは危険ですって習わなかったのか!?」
「すまない。大丈夫か?鼻を打ったのか?」
「ぅ~……オレの鼻が低くなったら由羅のせいだっ!」
鼻を押さえてふがふが文句を言っていると、由羅が「どれ、見せてみろ」とオレの鼻をきゅっとつまんだ。
「大丈夫だ。それ以上低くはならな……」
「お黙りあそばせっ!!」
ペチッと由羅の手を叩く。
これでも一応、莉玖の前ではなるべく言葉遣いが乱暴にならないように気を付けている。
そのせいで、咄嗟に丁寧に言わなきゃって出て来たのが、お嬢様言葉?だった。
あら、これ意外といいんじゃない!?
杏里さんの話し方を真似すればいいのかしら!?
って、ちっがーーうっ!!
これじゃただのオカマちゃんになっちゃうじゃないのっ!
全然大丈夫じゃねぇよ!
莉玖がいるので聞かれないように小声で悪態を吐いて、由羅の背中を叩くフリをした。
本当は思いっきり手形がつくくらいバシッと平手で叩こうかと思ったが、今は由羅が莉玖を抱っこしているので……
家に帰ったら覚えてろよ!?
「んで、ここがどうしたんだよ?」
気を取り直して、由羅にここに来た目的を聞く。
「あぁ、ここで会ったんだ」
「誰に?」
「怪しい人」
「それって……」
由羅に黒水晶のブレスレットをくれたっていう……?
「そうだ。黒水晶 をくれた怪しい人だ」
「へぇ~……まぁ……こんな場所にいること自体怪しいよな」
由羅が立ち止まったそこは、古ぼけたお地蔵様のような石像が並ぶ、何とも異様な雰囲気の場所だった。
っていうか、あれ?神社にお地蔵様ってあったっけ?
「あっちに寺があるんだ。神社と寺が同じ敷地内とか隣り合っているというのはままあるものだ。昔の名残だな」
「あ~、言われてみれば……」
神社と寺が同じ敷地内にあるというのは、オレもいくつか見たことがある。
「静かな場所を求めて歩いていると、いつの間にかここに出たんだ」
「ば~か、あれは連れて来られたんだよ」
どこからか由羅にツッコむ声が聞こえて来た。
なんだ、今の声……どっちだっ!?
オレは慌ててキョロキョロと周囲を見回した。
見渡す限りには人影はない。
声も何だか独特のよく通る声で……莉奈の声のように頭の中に直接響いて来ているわけではないのに、すぐ隣にいるような……
「誰だ!?」
全身の毛が逆立つようなゾワッとする気持ち悪さを感じて、心臓が早鐘を打った。
「へぇ~?こいつぁ面白いな」
「綾乃、大丈夫だ。……ふざけてないで、出て来て下さい。綾乃が怯えてるじゃないですか」
「へ?」
由羅は、身構えているオレの肩を抱き寄せると、呆れたように誰かに呼びかけた。
***
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