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両手いっぱいの〇〇 第251話

「へいへい。……よっと」  ガサガサっと木の葉が擦れる音がしたかと思うと、目の前に人が現れた。  正確に言うと、上から降って来た。  上下黒のスーツに黒シャツ黒ネクタイ黒い皮靴。さらに黒のハットと黒のサングラス、よく見るとレザーっぽい黒手袋もしていた。  ……あ、どっからどう見ても怪しい人だっ!! 「よぅ、久しぶりだなぁ、ゆ~らりん!」  ゆ……ゆらりんっ!?  オレは人が上から降って来たことよりも、その人物が由羅のことを「ゆらりん」と呼んだことに驚いて、由羅の顔とその人物の顔を交互に見た。 「ですよ。勝手に文字を増やさないで下さい。相変わらず木登りが得意なんですね」 「お前が来てるのがからな。ちょっと驚かせてやろうと思って……」 「また余計なことを……」 「はぁ~ん?老体にムチ打ってでも、弟子を楽しませてやろうと言うこの優しさがわからないかねぇ~?」  老体とは言うが、サングラスのせいで顔はよく見えないものの、スラリと立つその姿はパッと見た感じ年齢不詳だ。  喋り方はちょっと年寄りっぽいけど、声も張りがあるし、せいぜい40代か50代くらいだろう。 「余計な優しさですね。おかげで莉玖が怯えてしまっているじゃないですか」 「おお?なんだその子どもは。お前の子か?」  怪しい人がちょっとサングラスをずらして莉玖を見た。 「正確には違いますが、今は私の子です」 「ん~?……どれど……」  怪しい人が莉玖に手を伸ばそうとした瞬間、莉玖のスイッチが入った。 「ぁんぎゃあああああっっっ!!」 「ぅおっ!?え、何だよ!?急にどうした!?」 「誰かさんが余計なことをしたせいでビックリしたんですよ。よしよし、莉玖。大丈夫だ。怪しいけど怪しい人じゃないからな。怖くないぞ~」  軽くパニクった莉玖が、必死に由羅にしがみつく。  普段は由羅に抱っこされていても、何かに驚いたり眠たくなったりして泣くと「あ~の~!」とオレに抱っこを求めてくるのだが、今日はそれどころではないらしい。  莉玖は「パパでもいいから助けてくれぇ~~~」という感じだろうが、由羅は莉玖が抱きついてくれるのが嬉しいようで、ちょっと口元を綻ばせた。 「怪しい人ってどういう意味だよ、おいっ!!仮にもてめぇの師匠に向かってそりゃねぇだろぉ~!?」 「どう見ても怪しいでしょ。それより、泣かせた責任取って下さい」 「おおっ!?俺が!?えっと、あ~、べろべろばぁ~~!」 「ぅぎゃあああああっっ!!」 「だめかぁ~!……ん~~~それじゃあ、いないいないばぁ~!」 「たいして変わらないと思いますけど……」 「うるせぇなぁ~!こんなちっこいの相手にしたことねぇんだよっ!!」  莉玖がギャン泣きにも関わらず、由羅は余裕の表情であやしながら、怪しい人をからかっていた。  ったく……由羅のやつ、楽しんでるな?  だが、由羅がオレ以外の人を相手にそこまでふざけているところは見たことがないので、ちょっと意外というか、新鮮な気がした。 「由羅、タオル」 「ん?あぁ、ありがとう」  オレは軽くため息を吐くと、莉玖の涙と鼻水と涎まみれになっている由羅にそっとタオルを渡した。  もう遅い気がするけど……まぁ、莉玖の顔を拭いてやらなきゃいけないしな。 「あう゛~~~っっ!!あ゛っち゛、って!!あ゛っち゛っ!」  莉玖が必死に人さし指を振り回す。 「莉玖があっちへ行けと言ってますよ?」 「あっちってどこだよ!?」 「由羅、代わる。それ以上泣くと吐いちまう」  莉玖の泣き方がだんだんと怪しくなってきたので、オレは慌てて由羅から莉玖を抱き取った。 「ほ~ら、莉玖~。大丈夫だからな。怖かったな~。よしよし、綾乃がいるからもう大丈夫だぞ~。ちょっとお茶飲むか?そんなに泣いたら暑いだろ?」 「あああのぉおおおおぅ!!」 「あ、今はいいって?はいはい……綾乃ですよ~……」  オレは莉玖を連れて、由羅たちから少し離れた。 「ほら、周り見てみろ。ここなら大丈夫だろ。あ、何か光ってるぞ!?蛍かなぁ~?……」  何とか莉玖の気を逸らそうと周囲を見回したオレは、ちょうど目の前を小さい光が飛んでいったので、これ幸いと莉玖に話しかけた。 「あぁあの……お?……」 「見えるか?」 『いや、綾乃くん、それって……』  莉玖が光を見つけたのか、キョトンとして泣き止んだ。 「なんだ、こんなので泣き止むなら、いくらでもみせてやるよ」  遠くから莉玖の様子を窺っていた怪しい人が、そういって指をパチンと鳴らした。  その瞬間、辺り一面に光の玉が浮かび上がった。 「ぅわぁ……すげぇな……」  何だ今の!?  あの人、蛍を操れんのか!?  それとも、なんかマジック的な? 「ぉ~!?あ~の!ちで~ね~!」 「うんうん、キレイだな~!」 「ふむ……その子も視えるんだな」 「……え?」  視える?  それって……もしかして…… 『綾乃くん、それ、蛍じゃないわよ?よく見て?もうだいぶ力がなくなって、形を保つこともできないくらい弱弱しいけど……』  莉奈の声がしたので、近くの光に集中してよく見てみると…… 「これって……鬼火か……」  いわゆる、怪火、火の玉と呼ばれているものだ。  オレも墓地とかで数個飛んでいるのは見たことがあるが、こんなに大量の鬼火は初めて見た。  その鬼火を指を鳴らしただけで大量に集められるあの怪しい人って一体……  オレは、すっかり機嫌が直って光の玉に興味深々に手を伸ばす莉玖を抱っこしたまま、由羅の隣で笑っている怪しい人を見た。 ***

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