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両手いっぱいの〇〇 第253話

 莉玖に母親の莉奈のことが視えていると知ってちょっと嬉しそうな由羅をよそに、オレは月雲(つくも)から目が離せなかった。  由羅がこっちに来たあと、その莉奈が月雲にからだ。  最初はオレに向かって手招きしているのかと思ったのだが、月雲が手招きしながら小さく口を動かしたと思ったらオレの後ろに隠れていた莉奈が、いきなり何かに引っ張られるようにして月雲の前へと移動していた。 「なぁ由羅。あの人って……お前の師匠って言ってたけど、その……いきなり除霊とかしねぇよな?」 「ん?」 「今さ、何かあの人に莉奈が呼ばれて……」 「えっ!?ちょ、師匠~っ!ちょっと待った!!」  由羅が慌てて月雲に叫んだ。 「ぁんだよ?急に大きな声を出すなよ。子どもがビックリしてるぞ?」 「師匠、ここにいた女性はこの子の……」 「わかってるよ。今話を聞いた。その子の母親だってな」 「はい……」  由羅がホッと息を吐いた。   「ふぇぇ~~……」 「あぁ、莉玖、驚かせてすまなかったな。大丈夫だ。パパは怒ってるわけじゃないからな~。よしよし……」  おいこら、そんなに慌てるってことは、もしかしたら莉奈はいきなり除霊されてたかもしれねぇってことか!?  お前の師匠は一体どんだけ物騒なんだよ!? 「心配しなくても、除霊したりしねぇよ。ゆらりんが近付いても平気な顔していられるってことは、それなりに霊力が高いか、ゆらりんの関係者ってことだからな」  月雲がオレの心を読んだかのように返事をした。  え、何なの!?あの人超能力者(エスパー)!? 「別に超能力者(エスパー)でも何でもねぇよ。坊主の場合は顔に書いてあるじゃねぇか」 「え!?オレの顔!?」  顔に書いてある!?  それが「思ってることや感情が表情に出やすい」という意味なのはわかっていても、思わず顔を触ってしまう。   「それより、坊主。ちょっとこっちにおいで」 「オレ?あのさぁ、さっきから坊主坊主って、オレ一応もう大人なんですけど?」 「悪ぃな。坊主の名前知らねぇんだよ」 「あぁ……」  言われてみれば、オレの名前はまだ名乗ってなかった気がする……たぶん? 「オレは綾乃……です」 「アヤノ?それって名字?それとも……」 「名字だけど?」 「ふぅ~む……」  月雲はオレの名字を聞くなり、腕を組んで、眉間にしわを寄せ唸った。  え?何でそんなに難しい顔してんだ? 「……よし、“あやりん”でいいか!」 「……はい?」  え、このおっさん、もしかして……オレの呼び方を考えてただけ!?  しかも、結構熟考したわりに、クオリティ低っ!!  何でもかんでも「~りん」ってつけるなよ!? 「綾乃、あまり気にするな。師匠はそうやってすぐに人をからかうんだ」 「はあ!?」  え、オレからかわれてたのか!? 「相手をするだけ無駄だから、無視するに限るぞ」 「なるほど……何となくわかった」 「おいこら、そこの弟子っ!!全部聞こえてんぞ~!」 「耳は健在なようで安心しました」 「お陰様でなっ!!もういいから早く来いっつーの!早くしねぇと花火が始まっちまうぞ」 「あっ!そうだった!」  花火の前に帰るつもりなんだから、もたもたしている暇はない。  オレは由羅に莉玖と荷物を預けて、月雲の元へと向かった。 ***

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