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両手いっぱいの〇〇 第254話
「何ですか?」
オレは何となく、学生時代に先生から呼び出された時のような居心地の悪さを感じながら月雲 の前に立った。
「あ、そのままそのまま。じっとしててね~?ふ~ん……へぇ~……ほぉ~?」
月雲はよくわからない声を出しつつ、頭のてっぺんからつま先までじっくり視線を這わせると、そのままオレの周りをぐるりと一周した。
何だよ一体!?気色悪ぃ!!
「坊主、あ、あやりんだったな」
わざわざ言い直すな!!
怒鳴りたかったが、由羅に「気にせずに無視しろ」と言われたので、ぐっと堪えた。
「もう坊主でいいです……」
“あやりん”よりは坊主呼ばわりの方がマシな気がする。
「いやいや、せっかく考えたんだから呼ばせてくれよ~」
「……お好きにどうぞ……んで、何ですか?」
「坊主は自分からは視えねぇんだって?」
「え?あぁ、はい。向こうが視せようとしない限りは……」
「ふ~ん……じゃあ、これ視えるか?」
そう言って、月雲が手を握って来た。
「……え?」
月雲に手を握られた瞬間、周囲に大量に霊が現れた。
「ぅわっ!?」
思わず月雲の手を振り払う。
手が離れたと同時に霊の姿は消えた。
何だ今の!?
「視えたみたいだな」
「今のって……」
「あああああああああああのおおおおおおっっ!!!」
「えっ!?莉玖!?」
急に莉玖の叫び声が聞こえたのでびっくりして振り返ると、由羅に抱っこされた莉玖がこちらに向かって手を伸ばしていた。
「すまない、何でもないんだ。どうやら莉玖は師匠が綾乃をイジメてると思ったみたいだ」
月雲とのやり取りを見た莉玖が、オレが月雲に危害を加えられているとでも思ったらしい。
「莉玖~、大丈夫だぞ~!ほら、綾乃は何ともないからな~!」
オレは笑顔で莉玖にひらひらと手を振って元気アピールをすると、月雲に向き直った。
「う~ん、俺ぁ完全に悪者だなぁ~、トホホ」
実際にトホホって言うやついるんだな……
いや、それよりも!!
「さっきのはあんたがやったのか?」
「俺は手を繋いだだけだ」
「あんたと手繋いだら視えるようになるのか!?」
「う~ん、ちょっと違うな。手を繋ぐことであやりんのストッパーを一時的に解除した感じかな~」
「ストッパー?」
「そう。ゆらりんの話しじゃ、あやりんはあんまり霊力 がないって思ってるみたいだけど……」
オレは向こうから姿を視せない限りは視えない。
だから霊力が弱いと思っていたのだが、月雲の話しではどうやらその逆らしい。
「あやりんは視たくないものを視界からシャットアウトしてるだけだ。霊力にストッパーをかけてな。ただ、相手の念 が強い場合は、視えちゃう時もある。だから、時々視えるし、あやりんが視えるやつはどれも念が強い厄介な霊ってことになるんだな」
「……はあ……」
月雲は真面目に話してくれているのだが、「ゆらりん」と「あやりん」のせいで話しが全然入ってこない。
え、結局何なの?
「だ~か~ら~、ゆらりん程じゃないにしても、あやりんも霊力は強いってことだよ」
「え~と……オレも一応自分に入って来ようとする霊 を跳ね返すくらいは出来るんですけど……由羅みたいにバリア的なものは張れないっすよ?」
「あぁ、ゆらりんのあの霊力はちょっと特殊だからな~。守護霊の力もあるし……まぁ、あれは稀なパターンだから気にすんな。あいつの傍にいればあやりんも守られてるから変なのは寄って来ねぇだろ?」
「たしかに……一緒にいれば大丈夫だけど……」
「それに、あやりんだってバリア張ってるぞ?」
「……へ?」
「視たくないものを視ないようにできるってことは、自分の周囲に近寄らせないようにしてるってことだから、つまりはバリアを張ってるのと同じことだ。ゆらりんみたいに自分以外の人間まで守る程の霊力はなくても、最低限自分自身は守れてるってことだな」
は~ん……?そう言われりゃそうかもしれねぇな……
え、じゃあオレって結構すげぇの?
……あれ?ちょっと待てよ?
「なぁ、由羅よりも霊力が低いはずのオレが、視たくないものをシャットアウトしてたっつーのなら、由羅は?あいつは子どもの頃から何でもかんでも視えてたって……」
たぶん、さっき月雲に視せられたように……
「あぁ、そうそう。そうなんだよ。ストッパーかけれたら良かったんだけどな~……ゆらりんの場合は霊力が強すぎて制御しきれてなかったんだよな~。しかも本人がアレだし?」
「アレ?」
「可愛くない。ガキの頃から全然可愛くねぇんだよ!!そんだけ霊力が強くて視えまくりなのに、冷めてるわ達観してるわ怖がらねぇわ……真面目過ぎて全然面白みがなかったんだよな~……」
「そりゃすみませんね」
由羅が莉玖を宥めつつ、月雲を見てちょっと顔をしかめた。
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