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両手いっぱいの〇〇 第255話

「まぁ、ゆらりんの話しは長くなるからまた今度な。とりあえず、今日はあやりんのことだ」  月雲(つくも)が腕を組んだままオレを指差した。 「オレのこと?」 「ゆらりんが心配してんだよ。あやりんはゆらりんと離れてる時に変なのに目を付けられやすいってな」  だから……りんりん言われると何の話ししてんのかわかんねぇよ!!  え~と、だから……オレが変なのに目をって……? 「あぁ……海でのことか。あれは……って、あれ?オレもわりと霊力(ちから)が強いってことは……そんじゃ、海で大量の霊に襲われた時に助けてくれたのは由羅の鍵じゃなかったってことか?」 「いや、それは確実にゆらりんの鍵だな。さっきも言っただろ?あやりんが視える(やつ)はどれも念が強い厄介な霊だって。つまり、あやりんが視える霊は、あやりんの霊力じゃバリアしきれないやつ。手に負えないやつってことだ」 「え、でも今までは……あっ!……そうか……御守り……」 「そういうことだな」  つまり、今までオレの目に視えてた霊を払ってくれてたのは御守りの霊力であって、オレの霊力じゃなかったってことか…… 「まぁ、御守りだけの霊力じゃないけどな?御守りの霊力を借りて、あやりんの霊力を増幅させてたって感じだろうな。まぁ、だから……海で視た(やつら)みたいに、御守りを手放してる状態で視えてた霊には、あやりんだけの霊力じゃどうしようもなかったってわけだから……もしゆらりんの鍵を持ってなけりゃ、下手すりゃそのまま海に引きずり込まれてたぞ?」 「ひぇっ!?」  いや……うん……それはオレも何となくわかってたよ?  実際、冗談抜きであの時はもうダメだと思ったし……  でも、改めて言われると……またあの時のことを思い出して、ちょっと…… 「綾乃!」 「ぅわっ!?」  な、なんだ!?  急に後ろに引っ張られたと思ったら、すぐ横に莉玖の顔があった。   「あ~の~!」  莉玖がきゃっきゃっ!とオレの顔を触って来る。 「……へ?」 「大丈夫か?ふらふらしていたぞ?」 「由羅?」  由羅の腕の中にいるのだと気付いて少しホッとする。  ん?なんでホッとしてんだ? 「あぁ、すまないな。あまり近付くと莉玖が嫌がるからちょっと乱暴になった。痛かったか?」 「え?あぁ、いや……大丈夫だけど……」  いや、だから何がどうなってんの?何でオレはこんなとこにいるのかなっ!?   「おいおい、ゆらりん。そんなに警戒しなくても別にイジメてねぇよ?」 「あんまり綾乃を怖がらせないで下さいと言ったでしょう?師匠はすぐに脅そうとするから……」 「過保護だねぇ~。はいはい、俺が悪かったよ。そんなに怒るなって!ほら、落ち着け。目が痛くて敵わん」  ん?目?  月雲はなぜか眩しそうに目を細めると由羅から顔を逸らし、煙でも払うように手を振った。 「あぁ、すみません。忘れてました」  由羅がちょっと慌てた様子で謝ると、オレの頭に顔を突っ込んで深呼吸をした。  ……なぁ、お前どこで深呼吸してんの!?  顔突っ込むなら莉玖の方だろ!?  由羅と月雲の話しについていけなくて、オレはご機嫌な莉玖に顔をペタペタされながら由羅に頭を吸われるというわけのわからない状態で固まっていた。    一体どういうこと!? ***  オレが戸惑っていると、遠くの方で何かの破裂音がした。 「おっと……始まっちまったな。おチビちゃんは音大丈夫か?」 「そうですね、これくらいなら大丈夫そうです」 「なぁ、由羅。始まったって、何が?」  オレが由羅を見上げて聞くと、由羅は「アレだ」と空を見上げた。  気が付くと辺りは暗くなっていて、空には色とりどりの光の花が咲いていた。 「……花火!?え、でもさっきまで明るかったし……っつーか、こんなに暗くなかったはず……」 「もうとっくに日は暮れていたぞ?」 「へ?」 「師匠がな、私たちの周りにお前が言うバリア……まぁ結界とも言うんだが、そういうのを張ってくれてるんだ。ここはちょっとした異空間になっているから花火の音が遠くに聞こえるんだと思う」 「……はい?」  ちょっと何言ってるのかわかりません……  あ、あれか?  あの海の洞窟で母猫が真っ暗の中オレに中の様子が視えるようにしてくれたみたいな感じ? 「師匠は除霊も出来ると言っただろう?今日ここに来たのは、さっき見た大量の鬼火を一気に除霊するためなんだ」 「いや、除霊っつーか、浄化する感じだけどな。まぁどっちでもいいけど」 「へぇ~……」  月雲はこの寺の住職と知り合いらしく、数年に一回、除霊のために呼び出されるのだとか。  さっき見た大量の鬼火は、いわゆる無縁仏たちらしい。 「んじゃ、花火が始まっちまったから、先にこっちを片付けるか。ちょっとゆらりん借りるぜ」 「え、借りるって……?」 「綾乃、すまないが莉玖を頼む」 「え?あ、うん」  由羅は月雲と何やらひそひそ話していたが、二人が両手を繋いで目を瞑ったと思ったら急に辺りが明るくなった。 「ぅわ、眩しっ!!」  あ、この光……洞窟で見たのと同じ……?  一瞬目が開けていられないくらい強い光が放たれたあと、今度は柔らかい光が辺りを包み込んで、先ほどの鬼火がひとつ、またひとつと浮かび上がった。 「おお~!あ~の~!ちで~!」 「ん?あぁ……そうだな……キレイだな……」  オレは「キレイだね~」と無邪気に喜ぶ莉玖を抱きしめて、複雑な想いで空を眺めていた。  空に咲く花火と、天に昇っていく鬼火が、なんだかひどく幻想的だった…… ***

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