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両手いっぱいの〇〇 第256話

 すげぇな~……これがいわゆる成仏するってやつかな?  オレは子どもの頃から人ならざるものや霊が視えていたが、ただ視えるだけだ。  自分に入って来ようとするやつを弾くのが精一杯で、除霊することなんて出来なかった。  だから、こういう場面を見るのは何だか新鮮で……  ……って、んん?  ふと由羅たちの方に視線を戻したオレは、思わず由羅たちを二度見した。  だって、オレには二人が……  いやいやいや、そんなまさか……たぶん、位置が悪いんだな!うん。  オレのいる位置からだとちょうど見えるってだけで……  と思いつつも、ちょっと身体をずらして二人の顔をよく見ようと精一杯覗き込む。  月雲(つくも)に近付くと莉玖が嫌がるので、その場から動けないのがもどかしい。 『あの二人、キスしてる……』 「えっ!?」 『みたいに見えるわね、ここからだと』  莉奈がオレに少し悪戯っぽく笑った。  莉奈ぁあああああああ!!!今そういうのいらねぇからっ!! 『心配しなくてもキスしてるわけじゃないわよ』 「わ、わかってるよ!それは……」  そんなはずはないとわかっていても、一応……一応な!?確認っつーか……  いや、別にキスをしてたとしても、だからどうしたって話しなんだけどさ……?  オレ……何を確認するつもりだったんだ……? 『キスじゃなくて、ただ、二人で額をくっつけてるだけよ』 「はあっ!?」  さっきは手を繋いでただけだったじゃねぇか!!  いつのまにそんな……って、いや、手を繋ぐのもどうかと思うけど!!  でも、額をくっつけるって……  え、どういうこと!?  あの二人一体何してんだよ!?   「あ~の~?」 「へ!?あ、あ~うん、ごめんごめん。何でもないぞ~。ほら、キレイだな~莉玖~!」  莉玖に笑いかけて、一緒に空を見上げる。  だが、空には数個の鬼火がポヤポヤと浮いているだけだった。 「ありゃ?花火は今休憩かな?もうちょっとしたらまた花火上がると思うけど……」 「あ~の、ちて(して)!」 「ん?何をだ?」 「とう(こう)!」  莉玖がパチパチと手を叩く。  オレに一緒に手を叩けと言っているらしい。 「手叩くのか?ちょっと待てよ~?よっと、ほら、これでいいか~?」  片手で莉玖を抱っこして、もう片方の手を莉玖の手にタッチした。 「ちぁ~う(ちが~う)とう(こう)!!」 「ちゃんとパチパチしろって?でも莉玖を抱っこしてるから両手は……う~ん、ちょっと待ってな?よいしょっと」  片方の足を上げて膝に莉玖を前向きに座らせ、莉玖のお腹に両手を回して一緒にパチパチと手を叩くと、ようやく納得してくれた。 「きゃっきゃっ!あ~の~!ど~じゅね~!」 「これで満足か~?あはは、そかそかそりゃ良かった。って、おっとっと」  さすがに足元が不安定な場所での片足立ちはキツイ。  しかも、莉玖のお出かけセットを片方の肩にかけているので、それだけでもバランスが悪い。  しっかりと両手でホールドしてある莉玖をそのまま抱き上げ、ひとまず足を着地した。   「綾乃?大丈夫か?」  オレがぐらついたのを見て、由羅が慌てて駆けて来た。   「え?あぁ、うん。ちょっとグラついただけ……あの、もういいのか?」 「あぁ、鬼火の方は終わった」  由羅が話しながらオレの肩からお出かけセットを外して自分の肩にかけた。 「そか……あの、さっき……」  なんで額くっつけてたんだ?なんて聞けねぇ~~!! 「ん?」 「あ、いや。あの、さっきのって一体……」 「お~い、花火も終わったし、一旦(いおり)に入らねぇか?茶でも飲みながらゆっくり話そうや」  遠くから月雲が手招きをしていた。 「綾乃、どうする?」 「え?あ、花火ってもう終わりなのか?」  てっきり、休憩中かと…… 「もともと花火の打ち上げ数は少ないんだ。ごく小規模な祭りだからな」 「そっか……莉玖~、もう花火おしまいなんだってさ」 「ち~ま?」 「うん、おしまい!」 「おて~ま!」    莉玖がまた嬉しそうに手を叩いた。 「花火も終わったしもう帰るか?」 「え?あ、でも月雲が呼んでるぞ?」 「あぁ、あれは別に無視してもいい」 「おいこら!!師匠を無視すんなっ!!」 「あ~……えっと、庵って小屋みたいなとこだよな?水ってある?」 「あるぞ~?」  月雲が腕を組んだままオレの質問に答える。 「良かった。それじゃちょっと寄って行こうかな。莉玖のオムツ替えたいんだ」  さっきからご機嫌な莉玖だが、実はシレっとが出ている気配がするのだ。 「そうか、仕方ないな。それじゃちょっと寄って行きます」  由羅が渋々という顔で月雲を見た。 「あ~もう!ほんっと可愛くねぇ弟子(やつ)!!」  月雲は顔をしかめつつも「着いてこい」と先頭(さき)に立って歩き始めた。 ***

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