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両手いっぱいの〇〇 第257話
「よ~し、キレイになったぞ~!スッキリしたな~!」
「ちゅっってぃり~!」
オムツを替えてスッキリした莉玖がお尻ではなくお腹をポンポンと叩いた。
「莉玖、それはお腹いっぱ~いの時だぞ?オムツの時はお尻ポンポンだ。あ、もしかして手届かない?」
「っちり~と~ぅと~ぅ!」
莉玖が短い手を伸ばしてでっかいお尻をポンポンと叩いた。
「あ、ギリ届いた!良かったな~。そんじゃオレ手洗ってくるから、パパはズボン穿かせておいて。なるべく自分でな」
「わかった。よし、莉玖~。ズボン穿くぞ~!ほらおいで。じゃあ足入れて……あ、こら、待ちなさい!」
莉玖に逃げられて焦っている由羅の声を聴きつつ、オレは手洗い場で手を洗っていた。
『この庵 、結構広いわね』
「……見て来たのか?」
鏡越しに莉奈に答える。
『うん、ざっとね。でも、人は住んでないみたいよ?キレイに保たれてるから、誰か管理する人はいるのかもしれないけど……』
「住職はいねぇのか?」
だって、月雲 はこの寺の住職に呼ばれたって……
『う~ん……いるにはいるんだけど……』
莉奈がちょっと言葉を濁した。
この寺に常に住んでるわけじゃねぇってことかな?
すべての寺や神社に住職や神主が住み込んでいるわけじゃないしな。
この庵も莉奈が言うようにたまに来て掃除をしている人がいるのだろうと思う。
室内には埃もないし、トイレもきれいだし、水も電気も通っている。
「まぁいいや。ひとまず由羅がいるから変なのも寄って来ねぇし、危ないことはないだろ――」
「随分と仲良しだな」
タオルで手を拭いて顔を上げるとすぐ後ろに月雲が立っていた。
「ぅわっ!?いつの間に!!」
全然気配を感じなかったぞ……
月雲が現れた瞬間、莉奈はさっと姿を消した。
でも、月雲にも視えてるんだよな?逃げなくてもいいんじゃねぇの?
「あやりんはあのおチビちゃんの母親とは仲良しみたいだな」
「仲良しっつーか……まぁ……莉玖の母親だし……莉玖を心配して(自称)守護霊になってるらしいから……」
「守護霊……ねぇ……」
月雲が腕を組んでちょっと首を傾げた。
「何か問題でも?」
「いや……問題はねぇけど……守護霊っつーのは……」
「あ~~~の~~~!!」
月雲が何かを言いかけたが、莉玖の声にかき消された。
「おっと、おチビちゃんが呼んでるぞ」
「あ、は~~い!ここにいるぞ~!」
ひとまず、月雲と一緒に由羅たちのところに戻った。
「莉玖~どした~?」
「あ~の~!」
部屋に入るなり、パンツ一丁の莉玖が足に引っ付いてきた。
「なんだ、莉玖。まだパンツマンか~?」
「ズボンを穿かせようとすると足をバタバタして脱いでしまうんだ」
「脱ぐのは上手なんだよな~。穿くのもそれくらいパッと穿けたらもっとカッコいいのにな~」
「へへ~!」
得意そうに笑う莉玖に、思わず苦笑する。
「ほら、綾乃と一緒に穿こうか。パパからズボン貰って来い」
「あ~い!パッパ~!」
「莉玖、ちゃんと穿くんだぞ?」
「あ~い!あ~の、ど~じょ」
由羅からひったくるようにしてズボンを取った莉玖が、オレの手にズボンを渡して来た。
「ありがと。はい、それじゃ莉玖どうぞ~!」
「あ~の、ど~じょ!」
「莉玖、どうぞ!」
二人でズボンを押し付け合う。
「じゃあ、これ綾乃が穿いていいか?よいしょっと……ちょっと小さいな~」
「あ~~!メッよ!!り~くんの!」
オレが無理やり足を入れようとするのを見て、莉玖が慌てた。
「え、これ莉玖のズボンだっけ?ほら、綾乃も穿けるぞ?頑張れば!う~~ん……」
「メッ!メッよ!!」
莉玖のお気に入りのズボンがミチミチと破れそうになっているのを見て、莉玖がオレの手をペチペチ叩いてズボンを剥ぎ取り、急いで自分の足を入れた。
「何だ、莉玖も穿きたかったのか?仕方ないな~。んじゃ莉玖が上手に穿けたら莉玖にあげてもいいぞ~?」
「り~くんのよ!……う~ん……でちた!」
一つの穴に両足を突っ込んで人魚みたいになりつつ莉玖が立った。
その状態でよく立てるものだと感心する。
「おしい!なぁ莉玖~、この穴はなんだろうな?ここは何入れるんだ?」
「あでぇ~?」
「あれぇ~?あはは……」
莉玖と顔を付き合わせてアハハと笑い合った。
「う~ん……平和だねぇ~……まさかゆらりんがパパになってるとはな」
「私が一番驚いてますよ……」
お茶を飲みつつオレと莉玖のやり取りを眺めていた月雲と由羅が感慨深く呟いた。
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