260 / 358
両手いっぱいの〇〇 第259話
「お?おチビは寝たのか?」
雑炊を食べたあと、元気に庵の中を探索しまくっていた莉玖は、ようやく疲れたらしく由羅に抱っこされてウトウトしていた。
「もう少しで寝そうなので師匠は黙っててください」
由羅が莉玖をトントンしながら月雲 からちょっと離れた。
「ゆらりんが冷たいっ!?ちょっとあやりん聞いたか!?あいつ酷くねぇか?久々に会ったっつーのによ~!?」
「師匠静かに!」
「へいへい」
「由羅、代わろうか?」
「いや、もう少しで寝そうだから大丈夫だろう。綾乃はお茶でも飲んで休んでいてくれ。師匠の戯言 に付き合う必要はないぞ」
う~ん、由羅って月雲のこと嫌いなのか?
やけに対応が雑だよな~……でもまぁ、師匠って呼んでるし、それだけ好き放題言えるっていうのはある意味甘えてるってことでもあるから……
「やれやれ……んじゃ、茶でも飲むか。ところで、あやりんはゆらりんのどこが好きなんだい?」
「え?う~ん……どこって……って、なななな何の話だよ!?」
由羅と月雲の関係について考えているところだったので、上の空で月雲の話しを聞いていたオレは思わず素で答えてしまいそうになった。
あぶねぇ~~!!ど、どこが好きって、どういう意味で聞いてんだ!?
「ゆらりんと付き合ってるんじゃねぇのか?」
「つ、付き合ってるわけねぇだろ!?」
「ん?だって一緒に住んでるんだろう?」
「いや、それはあの……住み込みの家政夫的な感じで……一応家もあるんだけど、あ、その家も由羅が用意してくれて……あの、オレ家がなくなっちまったから、それで……でも何か由羅がなんだかんだ言って引き留めるから結局しょっちゅう泊ってるってだけで……」
「ブハッ!あやりん動揺しすぎだって!」
月雲は、しどろもどろになっているオレを見て盛大に吹き出し、そのまま腹を抱えてしばらく笑い転げた。
「師匠!笑い声もうるさいです!」
「悪ぃ悪ぃ!ぅひひっ……はははっ!」
由羅に叱られた月雲は一応声を抑えつつそれでもまだ笑っていた。
「いや~、ほんと面白い子だね~。聞いた通りだわ」
「は?」
いや、面白いのはあんただろ……
って、聞いたって誰に?
「りなちゃんだよ。あのおチビちゃんの母親でゆらりんの妹なんだな」
「あぁ……莉奈いるのか?」
「そこにいるぞ?」
『はーい!いるわよ~?』
オレと月雲のちょうど中間あたりに莉奈がふよふよと浮いていた。
「なんだ、そんな所にいたのか。なんで隠れてたんだよ?別に姿隠す必要ねぇじゃんか」
「はぁ~、あやりんはホントにストッパーが強いんだねぇ~」
「へ?」
莉奈に向かってちょっと文句を言っていると、月雲が感心したようにオレをマジマジと見て来た。
「りなちゃんが隠れてるんじゃなくて、あやりんが無意識に視えないようにしてるだけだぞ?」
「え、オレが?」
「そうだ。だって、りなちゃんはずっとそこにいたからな」
「いや、だって……」
そりゃ莉玖もいるんだし、莉奈も近くにいるのはわかってるけど、オレは相手が姿を視せようとしないと視ることは……
「あやりんが今は視たくないとか、視えてると邪魔だって思った時に無意識に視えなくしてるんだよ」
『もちろん、私が自分で姿を消している時もあるわよ?あっちこっち移動してる時とかね。でも、姿を消してないのに綾乃くんに認識されなくなることはよくあるのよね~』
莉奈が月雲の隣でうんうんと頷きながら言った。
「そうだったのか!?何でそれを早く言ってくれねぇんだよぉ~!!」
オレずっと莉奈が姿を消してるとばかり……
『だって、私もそういう視える力っていうの?そういうのの仕組みとかよくわからないし……』
そりゃそうか。
オレ自身わかってないんだし……
「なぁ、それじゃ別にオレが莉奈はずっと視えてていいって思ってたら、傍にいる時は呼ばなくても視えるってことか?」
「そういうことだね」
「あれ?でも最初は莉奈から話しかけてきたんだぞ?」
莉奈が助けてって叫んだから莉玖に気づいて……その時莉奈の姿も視えて……
「それは、りなちゃんが一時的に必死に霊力を高めて周囲に助けを求めてたからだろうな。普段はあやりんのストッパーに引っかかるくらい霊力が弱い。まぁ、そこらの浮遊霊に比べりゃ強い方ではあるけど……」
月雲がちょっと言葉を濁した。
「ま、おチビちゃんが危なかったってことだし、母の愛ってやつだろうね」
「なるほど……」
『そりゃそうよ!あの時は必死だったもの!一番気づいて欲しい兄には全然届かないし……』
莉奈がやれやれとちょっと顔をしかめて肩を竦めた。
「あ、そうだ!なぁ、さっきのって何やってたんですか?」
「ん?」
「あの、ほら、何か花火の時に鬼火をぶわって……」
顔を密着させてたことも気になるけど、そもそも二人で何やってたのかが気になる!!
「あぁ、あれはまぁ一斉浄化みたいなもんだな」
「成仏させたってこと?」
「そうだな。とりあえず天に送った感じだ。念の強いやつらはまだ残ってるけどな」
「へぇ~!オレ、除霊とか見るの初めてだったから、なんかスゴイびっくりした!あんな風にするんだな~。もっとなんかお経とか唱えながらするのかと……」
「一応唱えてたぞ?」
「え、そうなんだ?」
「花火の音にかき消されてただけだ」
「あ~……」
花火の音、ほとんど聞こえなかったけどな~……?
まぁ、小声で唱えてたってことかな?
それより、どうして由羅と手を繋いで……
「一斉浄化すんのは霊力をめっちゃ使うんだよ。だからゆらりんに手伝ってもらってたんだ」
「手伝う?」
「霊力をちょちょいとな」
「ちょちょい……由羅の霊力をわけてもらったってことか?」
「いや、わけてもらってたっていうか――……」
「……へ?」
いつの間にかオレは、現実離れしている月雲の話しに聞き入っていた……
***
ともだちにシェアしよう!