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両手いっぱいの〇〇 第261話
子どもの頃の由羅は、霊力は強くてもそれをうまく使いこなせていなくて暴走している状態だったらしい。
「暴走って?」
「うん。周囲の霊を手あたり次第に除霊しちまってたんだよな~。しかも無意識に。まぁ、本人がああいう性格で、基本的に何事にも無関心だったおかげで何とか制御出来てた感じでな」
手あたり次第に除霊って……何だそりゃ……
「でも、除霊すんのは別にいいんじゃねぇの?」
「う~ん……まぁ、相手が悪霊になっちまってたり、成仏したくても出来ない状態になってたら除霊するのもいいんだけどな。ただ……霊には霊の事情ってもんがあるんだよ。ほら、そのりなちゃんがいい例だろ?」
「……あぁ……」
そう言われると、何となく納得してしまう。
霊になってでも会いに行きたい人がいるだとか、どうしてももう一度行ってみたい場所があるだとか……
多かれ少なかれ未練はあるものだ。
オレの父ちゃんも……オレと母ちゃんを残して逝くことに未練とかあったのかな……
つーか、オレが生まれたこと知ってんのかな……
墓参りはしてるけど、オレ、一回も父ちゃんに会ったことねぇんだよな……
ってことは成仏してるってことなんだろうから良い事だけどさ?
「大抵の霊は、自分の未練が解消されれば、自然と成仏出来るんだ。まぁ中には往生際の悪いやつもいたり、その未練が呪いや怨霊の類に化けることもあるけどな……」
う~んと、つまり由羅は、会いたい人に会えれば満足して成仏できるような、無害な霊まで片っ端から除霊しちまってたってわけか。
「それで、どうにかしてくれって泣きつかれてよ。様子を見に行ったらアレだよ。超超超塩対応な可愛げのないクソガキ!!」
月雲 が大袈裟に顔をしかめて肩を竦めた。
「ん?泣きつかれたって誰に?」
「ここの住職だよ」
「住職は由羅のこと知ってたのか?」
「他の霊から聞いたんだと」
「他の霊?住職も霊が視えるのか?」
「霊同士は視えるだろ?」
「へ?」
「ん?」
月雲と顔を見合わせて同時に首を傾げる。
なんか話しが噛み合ってない気がする。
霊同士?ってことは……
「あの……ここの住職って……」
「あれ?なんだ、気づいてなかったのか。りなちゃんの隣に座ってるぞ?」
「え!?」
『ええ、さっきからずっとここにいらっしゃるわよ?』
莉奈が隣を指差す。
目を凝らすと、ぼやぁ~っと黒い影の塊が浮かび上がって来た。
黒い影は徐々に人の形になって……いくと思ったのに急にぶわっとでっかく膨らんだ。
「ぅわあっ!?ななななんだっ!?」
まさか膨らむとは思わなかったので、ビックリして思わず後ろにのけ反って尻もちをついてしまった。
くそっ!だせぇ~~!!
恥ずかしくて顔が熱くなる。
「あ~こらこら、住職ダメだって!あんまりあやりんを弄るとゆらりんに怒られるぞ~?」
え、じゃあ、この黒いのが住職!?
『なんじゃ、つまらんのぅ。ほれ、これで視えるかの?』
パチパチと瞬きを数回して目を開けると、袈裟を着た好々爺な坊さんがちょこんと座って手を振っていた。
「ええっ!?さっきのあのでっかい黒いのってこのじいさん!?」
『これこれ、わしゃこれでもこの寺の住職じゃよ』
「住職なのにあんな禍々しいものになんのか?え、もしかして悪霊……」
「あぁ、さっきのは住職のイタズラだ。気にするな」
月雲がはっはっは、と笑った。
い……いたずらぁあ~~~!?
『ほれ、付喪神って聞いたことくらいはあるじゃろ?長い年月を経ればただの茶碗にさえ命が宿るんじゃ。それなら人だって長生きすれば妖怪や神のように人智を超えたものになってもおかしくはないじゃろ?』
「いや、亡くなってる時点でもう人ではないけどな?」
『おお、それはそうじゃな。さすがは月雲じゃ!ふぉっふぉっふぉ!』
「おい、莉奈!おまえ、いつから知ってたんだよ!?」
よくわからないやり取りを横目にオレは莉奈にこっそり話しかけた。
『え?最初からいらっしゃったわよ?』
「だって、莉奈……この庵には人は住んでないって……」
『生きてる人は他にいなかったわよ?霊ならいるけど』
そう言って、住職と自分を指差した。
そういうことかっ!
そういえば、住職はいねぇのか?って聞いたら、莉奈はちょっと言葉を濁してたな……
もうちょっと突っ込んで聞いておけば……っ!!
っつーか、なんか……厄介なのが増えた気がする……
由羅ぁ~早く来てぇ~~!!
***
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