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両手いっぱいの〇〇 第263話
「ぅぶっ!!な、なんだよ由羅!急に止まんなよ!」
由羅のあとを追いかけていたオレは、急に止まった背中に顔ごとぶつかってしまった。
「ん?あぁ、すまない」
「ぅ~、まぁオレもちゃんと前見てなかったのが悪ぃんだけど……入らねぇのか?」
由羅が入口で立ち止まったままなので、オレは鼻を撫でつつ首を傾げた。
「いや、ちょっと入るのを身体が拒否している気がしてな」
「はあ?」
何言ってんだこいつ……?
「お~い、ほら、早く入って来いよ~」
由羅の背中が壁になって中の様子が見えないが、月雲 が呼ぶ声がする。
「由~羅?」
「酔っ払いの相手はしたくないんですがね……」
オレが背中をポンポンと叩くと、由羅が深くため息を吐いて、そう言った。
「はあ?オレ酔っ払ってなんか……」
「師匠、まだお酒隠してたんですね!?以前来た時に全部処分したはずなのに!」
由羅がちょっと呆れ声で文句を言いつつ中に入った。
あ、中に向かって言ってるのか……ん?酒?
さっきそんなの呑んでなかったはずだけど……
由羅に続いて中に入ると、月雲と住職が二人で酒盛りをしていた。
「……ん?」
いやいやいや、住職って霊だよな!?
なんで普通に酒呑んでんだ!?
住職は、あんぐりと口を開けて見ているオレに向かってニカッと笑うと、ピースをしてきた。
『ふひゃひゃ!あやりんも呑むかえ?』
「溜め込んでた俺の酒コレクションはゆらりんに捨てられちまったから新しいの持って来たんだよ。ほら、除霊した後は身体を清めなきゃ行けねぇからな!清めの酒だ!これは大事なことだぞ~!?」
「本当のところは?」
もっともらしく言う月雲に、由羅が真顔で聞き返す。
「……祭りの時くらい呑んでもいいだろ?それに、せ~っかくゆらりんと会うんだから、たまには一緒に呑もうと思ってな?」
「私はお茶をいただきます。だいたい、前回会ったのがもう……3~4年前ですよね?師匠がその間、一滴も呑んでないだなんてことありえません。どうせ普段は吞みまくりでしょう?」
「ゆらりんは俺がそんなにも意志の弱いやつに見えてるのか?」
月雲が「心外だ!」という表情をする。
「はい、見えます。あ、綾乃はお酒弱いので絶対に飲ませないで下さいね!?住職も!!」
「え~!?」
『なんじゃ面白くないのぅ……』
「面白くなくて結構。住職のおふざけに綾乃を巻き込まないでください」
「なぁ……なぁ由羅っ!!」
オレは小声で呼びかけつつ由羅の服をツンツンと引っ張った。
「ん?なんだ?」
「住職って霊だよな?」
「あぁ、そうだ」
「でも酒……っていうか、あれ?そういえば由羅って住職は視えてるのか?」
「視えない」
え、でもさっき住職と会話してたような……
『嘘言うでない!視えとるはずじゃ!』
「視えてんのか?」
「視えている」
「え、何でだ!?じゃあ、莉奈のことも視えてたのか?」
「いや、莉奈は視えない。住職以外の霊は今はもう視えない」
どういうこと?
『わしゃ住職じゃからな』
説明になってねぇぞ?
『まぁ、真面目な話しをすると、わしの霊力も間接的にゆらりんの中に入っとるからのぅ』
「さっき、ゆらりんの霊力は俺の霊力って話しをしただろう?」
「あぁ……はい」
そうだ、その話から住職が霊だって話しになって……
「そんな話しをしていたんですか……」
由羅がちょっと顔をしかめた。
「あ……悪ぃ。あんまり聞かれたくない話だった?まだ由羅の霊力の半分が月雲さんの霊力だってことしか聞いてないから、由羅が聞かれたくないならこれ以上聞かねぇけど……」
「いや、別に綾乃になら知られても構わないが……そんなに面白い話しじゃないぞ?」
月雲さんと出会った時の由羅が厄介な状態だったっつーのを聞いた後だし、面白い話しじゃないのは何となくわかってるけど……
別に面白い話を期待して聞きたいんじゃなくて……普通に気になるっ!!
月雲さんだけじゃなくて住職の霊力も入ってるって……由羅の身体は一体どうなってんだ!?
「あぁ、霊力な……そうだな、たしかにこの二人の霊力が入っている……らしい」
「らしい?」
「私自身はあまりわからないんだ」
「ぅお~い!知らないわけねぇだろ~!?」
「知らないとは言ってません。あまりわからない……師匠たちの霊力はあまり感じないと言ってるんですよ」
「ええ~!?俺や住職の霊力わかんねぇの!?半分以上俺らの霊力なのに!?」
「わかりませんね。もう完全に私の霊力に溶け込んでいるので。よってこれは私の霊力です」
「うっわ……ちょっと住職聞いたか!?ゆらりんのやつひどくねぇか!?」
『まぁたしかに、だいぶ馴染んどるのぅ……』
「おいおい、認めちゃったよぉ~!!」
月雲が大袈裟な動きで畳に突っ伏した。
どうでもいいけど、話しが進まねぇ……
これは……どうして二人の霊力が由羅の身体に入ってるのか詳しい話しを聞こうと思ったら10年くらいかかりそうだな……
オレはこの人たちから真面目な話しを聞くのは無理だと悟った。
この二人と普通に会話できる由羅ってすげぇな……
***
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