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両手いっぱいの〇〇 第264話

 どうせ説明してくれないなら、そろそろ帰りたいな~……  オレがそんなことを考えていると、また考えを読んだように月雲が笑った。 「まぁまぁ、ちゃんと説明してや~るって!え~っと……なんだっけ?」  おいおい、大丈夫かよ。酔っ払い……  まだそんなに酒減ってねぇぞ?  月雲の前にある日本酒の一升瓶はまだ半分も減っていない。  一方、住職は一升瓶を片手で軽々持ち上げラッパ飲みしている。 「ヒック……こら~!じゅうしょ~く!ちょっとピッチ下げろ!水みたいにのむにゃ~!」 『酒なんて水みたいなもんじゃよ。お前さんは相変わらず酒が弱いのぅ……』 「お~れがよえ~んじゃねぇよ~。ヒック……じゅ~しょくのしぇいら~!」  なぜか月雲の呂律が急に怪しくなってきた。 「な、なあ、由羅。月雲さんって酒弱いのか?」 「ん~?いや、そこまで弱くはない。むしろ強い方だとは思うぞ」 「へぇ~……でもそのわりには……っつーか、なんかお前変じゃね?」 「ん~?」  ふと隣を見ると、お茶を飲んでいるはずの由羅も、ちょっと頬が赤く染まっているような気がする。  いや、お前が飲んでるのってお茶だよな!?  オレが飲んでるのと同じ煎茶だよな!?  煎茶で酔うとかある!? 「住職、自分が酔わないからって飲み過ぎです!ちょっと控えてください!私まで影響受けるんですから!運転しなきゃいけないので勘弁してください」  由羅が住職から酒瓶を取り上げようとすると、住職が酒瓶にしがみついた。   『やめんか!年寄りの楽しみを奪うとは何事じゃ!』  影響……って何の?  っつーか、霊なのに酒瓶にしがみつけるのかよっ!  いやそれを言えば、酒を呑んでる時点でおかしいんだけどさ!?  しかも、由羅が力負けしてるし!!  住職はそんなに力を入れているように見えないのに、由羅は住職から酒瓶を取り上げられずにいた。 『酔っても大丈夫じゃ!泊まって行け!』 「代行があるので大丈夫です!でもこれ以上吞まないでください!」 『代行ってなんじゃ?』  住職が由羅の言葉を無視して酒瓶に口をつけると素早く傾けた。   「あっ!!こらっ!……まったく……代行は飲酒した時に代わりに自家用車を家まで運転して帰ってくれるサービスのことですよ」  由羅が諦めて手を離すと、ちょっと反動で住職が後ろにコロンと転げた。  が、器用に酒は死守していた。 『ほぅ……最近はそんなもんが出来とるんか……』 「このサービスはだいぶ前からありますけどね……あ~もぅ!くそっ!……こうなるから酒を全部始末したのにっ!!……すまない、綾乃。ちょっとそのお茶貰ってもいいか?」  由羅が頭を軽く振ってオレのお茶を指差した。 「ん?あぁ、別にいいけど、これもう(ぬる)いぞ?新しいお茶淹れようか?」 「いや、温いくらいがちょうどいい……」  そういうと、由羅はオレの飲みかけのお茶を一気飲みした。  そんなに喉渇いてんの!?  慌てて由羅とオレの茶碗に新しいお茶を淹れる。 「だ~めだって、ゆらり~ん。それくらいじゃ薄まらねぇよ~?」 「わかってますよっ!」  由羅がため息を吐きつつ立ち上がった。 「由羅?」 「ちょっと水飲んでくる」 「あ~、ゆらり~ん、俺の分もいれてきて~」 「はいはい」  由羅が土間に下りると、外に出て行った。 「え、どこ行ったんだ!?水ならそこに……」  台所にも、水はある。  水道水ではなく、裏の湧き水からひいているらしいが、夕食を作る時に使ったし、生でも飲めるって言っていたはずだけど……っていうか、オレ飲んだし!? 「酒を薄めるには~、湧き出してるとこから~汲んでこねぇとぉ~意味ねぇんだよぉ~」 「湧き出してる?水が出て来てるところってことか?何でだ?」 「俺と~ゆらりんが酔ってるのは~、じゅうしょくのせいだから~」 「はい?」  さっきから月雲と由羅が言っている意味が全然理解出来ない。  なんで住職のせいで月雲と由羅が酔うんだ……?  霊力の話しも気になるけど、こっちも気になる……  気になることだらけなのに、どれもこれも中途半端だ。  気になることが多すぎて、逆になんだかもうどうでもよくなってきたぞ…… 「ゆらり~ん!あきらめないでぇ~!」  うん、もう月雲に気持ちを読まれるのも気にならなくなってきた。  どうせオレは顔に出やすいからなっ!! 「だったらちゃんと話してください!由羅の霊力の半分が月雲さんと住職の霊力だとか、住職が酒を呑むせいで二人が酔うとか……意味わかんねぇ」 「うんうん、だよなぁ~。ひとまずぅ~み~ず!水飲んで酔いを醒まさねぇと~はなしぇましぇ~ん!」  うん、ウザい……  この人、実はそこまで酔ってないんじゃ……ただの演技?  オレは月雲たちの相手をするのが面倒になり、なかなか戻ってこない由羅の様子を見に外に出た。 ***

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